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こころ秘かにそう呼んでいた
――温泉宿ではなく海辺の一軒家を
灰褐色をした雑木林と
露出した山肌が囲み、
いつからか戻らなくなった主の代わりに
月に一度か二度、ぶらり現れては泊まって ....
あらゆる食物連鎖は美しい
風 吹く遠視のサバンナで
息 潜め獲物を狙う
豹の爪は忍
一瞬 筋肉の爆発だ
ガゼルの柔らかな肌に
鋭利な刃物は
爪が食い込み
喉笛は鋭い牙で刺し込まれ ....
僕が女になっても好きでいてくれますか
女に生まれていても 好きになってくれましたか
姉に生まれていても 好きになってくれましたか
僕の肌が黒くなっても好きでいてくれますか
日本人じゃなくて ....
もう忘れてる。
さっき考えてたコトなのに、とても大事なコトのはずなのに、もう思い出せないでいる。
それ程ダメージはでかくはない。
おバカの特権だ。
引き換えに何を失くしたのかはアトから ....
この腕を
手の甲を濡らす
その小さな小さな
水の粒が
あの天の高いところから
やってきたと
果てない空の
人知れない旅路を思い
....
ショートカットキーが
人生とは三秒の積み重ねだと教えてくれる
そんなに慌てて何かを作るくらいなら
ゆっくり余裕をもってやればいいのに
それでもショートカットキーはあり続け
ショートカットキー ....
少し前まで{ルビ賑=にぎ}わっていた
デイサービスのお年寄りが帰り
部屋ががらんと広くなった
{ルビ掃除=そうじ}の時間
いつも掃除機をかけるおばちゃんが休みなので
「じゃ、俺 ....
ぬっぺふほふ
脂身 から にゅるんと 手と
煮凍り から ぬらりんと 足が
新月の 夜道を ぺたりぺたり 歩いて
軒下の 薄明かりに ぐんにゃり うずくまる
こらあげん の 垂れ ....
話し相手もいない
寂しい大地
哀しくて眠れない夜は
誰かの髪のすきまを
すり抜ける風になりたい
明け方まで星の
瞬くさまをみていたい
星の移りは
エンドロールのようで
焚き火 ....
ふゆふあ
あったかいふとん
ふゆふあ
つめたいあしが
ふゆふあ
こぽこぽおふろ
ふゆふあ
じーん、かたまで
ゆげのけつろ
つかのまのひざし
ふゆふあ
めれんげにく ....
薄く
霜が降りる早朝は
透き通る柔肌に
衣服の滑り落ちる音
快く耳を澄ませる
街はようやくのこと
呼吸をし始めるそうだ
ふくよかに
乳房が笑いながら
云う
喧騒のない街には
....
わたしの、からだが
このくうきのなかで
そだって ゆく
うごめくその べつじげんのせいめいたいに
なにか ふるえ、
・
彼女は夏に生まれた
しず ....
風を辿ってみれば
春はいまだ遠い
待っているのかもしれない
病室にいる母に
思いを巡らす
どんな風景を、この雪
窓から静かに
眺めているのだろう
病を患って永い
爪の先からこぼれ ....
雪女
もうそろそろ思い出して欲しいの
あの冬の日の美しい青年も
今じゃ肉色の雪だるまで7人の子だくさん
どうにも暑苦しくて耐えられないわ
今年も余計に雪を降らせてやったけど
....
冬
新緑の匂いなど知らない
今は深く眠るだけだという
獣たちの叫び声を閉じ込め
風の白い息だけが聞こえてくる
妖精のように踊っていた水
山々に見つめられても
厚い衣の下 ....
少し疲れてくる二十五歳
現実的になる二十五歳
老後とか考える二十五歳
後輩ができる二十五歳
そんなに若くはない二十五歳
周りが結婚しだす二十五歳
子供も生まれる二十 ....
遠い 遠い 空の 空の 下
あなたはどうしているのでしょうか
ただ胸にポカリと開いた穴から
静かにトウトウと流れ出していくようで
酩酊して
街の片隅のコンクリートで忘れ去 ....
いつしか、
風のように地面を忘れてしまう
飛ぶでもなく、舞うでもなく
深海のようではなく墜落する
白夜の季節、朝焼けと夕焼け
始まりも終わりもない不安な砂時計
いつでも途中であきらめてしま ....
1月1日や
2月14日や
12月24日が言いました
すいません特別っぽい日ですいません
わたしたちなんかがいるせいで
なんかちょっとしょんぼりさせてすいません
いいんです
普通の ....
沙漠。人たる飛沫の色と喘ぐ口
そして些少の水、忽ち陽も声なき砂に埋もれ
凛として立ちつづけた女の淡い影
匂い燻る、榴弾の転がる塹壕を後に
夜の静寂が痩せた躯(むくろ)を晒して
番いの命、 ....
Nice to…
ああ、キン肉マンのおでこに書いてあるやつね
違ったっけ?
あなたは苦笑いしながらも頷いてみせる
完璧主義者を気取るあなただって
お母さんのお腹から出てき ....
狐火
東京タワーのライトアップのバイトは
少し怖かったけど時給の油揚は厚かった
明日は午後6時にお台場集合らしいけど
エコとか言って体よく使われてる気がする
人はあやかしなん ....
一九九五年
一月十七日五時四六分五二秒
兵庫県南部地震
後の阪神・淡路大震災発生
死者六千四三七名
負傷者四万三千七九二名
行方不明者三名
避難人数三〇万人以上
未曾有 ....
薄氷が張った空の
水色の向こうに何があるのか
私にはわからないけれど
朝、目的地の自転車置き場で
ふと、立ち止まり見上げていた
空には、肉眼で確認できないほど
かすかな穴が開いていた
誰 ....
縁をひとつ
自らで切ろうと思うのです
不安定で平和な木曜日がいいでしょう
草木の青臭い
今の時期がぴったりとくるでしょう
深呼吸をしても
溜め息で押し戻しても
....
布に包まれた人の細波
めくってみると 波音は静まり
わたしは つまさきで
浜辺に足跡がつかないように
つまさきで
全天の半分が
この太陽の光で圧倒されて
青空の透明感が増す
枯れ枝に太陽光は懸かり
直視できぬ もどかしさ
潮のごとく逆巻く直射光
日差しは小さな部屋を満たし始めて
また静かな一 ....
うさぎをどうやって救おう
名もなく死んでいくうさぎ
おびただしい数のうさぎ
うさぎは物音が怖いから
物音をたててはいけない
人の姿も怖いから
人の姿をしていてはいけない
そっと空気のよう ....
枕返し
枕は魂を夢の入り江へ運ぶ舟
夢と現の狭間に横たわる
とろんとした浅瀬を行き来する
僕は腕利きの一等航海士
大抵の鼾や歯軋りには動じないけれど
獏の襲来にはかなり手を ....
私たちには
自由がないから
私たちはそれぞれ
素敵なものを提出しあい
小さな箱庭を
作った
透き通る石や
カラフルな千代紙や
マフラーからほどけた
大好きな色の毛糸や
私 ....
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