すべてのおすすめ
打ち寄せる波の数をかぞえながら、
そのかたわらで
ぼんやりとあなたのことを想ってみたの
砂に書いた手紙は、
しだいに波に攫われて消え
そんな風に、
想い ....
*スピカのトランク
スピカの青いトランクの中には、壊れた物がたくさん入っている。
それは三時半を指したまま止まっている古い置き時計や、
硝子玉の取れてしまったおもちゃ ....
*島の魔女
「だってわたしは魔女だもの」
赤い唇を歪めて笑った魔女に、
オリオンは硝子壜を差し出したまま俯いた。
魔女はしばらくその頑なな様子を見つめてい ....
* ローレライの夜
「オリオン、君はあの歌を聴いたかい」
航路図を広げながら問いかけたスピカに、
オリオンは首を振って見せた。
「わたしはちょうどベッドの中だった」
....
嵐の日にカンパーナが遠くでないている
そんなに悲しい声でなくのはやめてくれ
森が揺れているよ
悲しい悲しいと、
カンパーナ
誰もおまえの森を奪いはしないのに
....
暮れていく夏空に似た恋をして大人になったつもりでいたの
言わないでほんとはもうね気付いてるあなたは優しいだから辛い
どうしても言えない言葉を胸に抱きあなたとわた ....
暖かな雨に追われて迷い込み君と出会った六月の町
徒に花びら数え占った恋の行方を君も知らない
花は花やがて綻び散るものの定めの前に花鋏有り
裏庭でか ....
峠には若い糸杉の木が一本生えている
すっくと立ち、
天を指差して
糸杉の木が、生えている
峠の糸杉から少し離れたところに、
朽ちかけた切り株がある
....
*黒猫と少年
黒猫のいなくなった部屋で、少年は揺り椅子に腰かけてぼんやりしていた。
がたん、と二番目の窓が音を立てて、
黒猫が顔を出した。
「どこに行っていたの ....
*手紙
古びた手紙の束を、抽斗の片隅に見つけた。
色褪せた切手の上の消印から、
少年は手紙を受け取った日のことをぼんやりと思い出す。
その日は朝から雨が降っ ....
*バレリーナ
古びたオルゴールの蓋を開けると、バレリーナがくるくると踊りだす。
それから、名前を思い出せない曲がゆっくりと流れ出した。
黒猫は、もう随分前からくも ....
*三番目
三番目の窓を開けると、その先には夕暮れの森が広がっている。
それから机の三番目の抽斗を開けると、
昨日の夜に見かけることのなかった月が眠っていたりする。
....
*鉱石ラジオ
暇をもてあました少年が、ふと思いついて鉱石ラジオを作った。
黒猫はそのかたわらで目を細めてその様子を見守っていたが、
いくらたっても何も聴こえてこな ....
*三日月
三日月の晩に、少年がふっと部屋から出て行くことを黒猫は知っている。
塔の螺旋階段に響く足音が、とん、とん、とん、と続いて、
てっぺんの窓を開ける音が聞こえて ....
*蝶
黒猫の気だるい微笑みは、いともたやすく蝶を虜にする。
その静かに差し出された手の上に、青い翅の蝶がとまる様子を、
少年は頬杖をついたまま眺めていた。
「可 ....
*夜半過ぎに
夜半過ぎになって、その悲しい報せはもたらされた。
そっと肩を寄せてきた黒猫が、
「それは悲しいことだわ」
と、うわごとのように何度か繰り返した。
少 ....
幸福を抱きとめて静止するあなたは、蕾のすがた
胸に手をあててわずかにうつむくその、
長い祈りにも似た、沈黙
春を知る朝の、淡い喜び
風が冷たくても、
....
風に揺られていたね
僕らはなにも選べずに
別れの言葉を強いるのは夕風
信じることも疑うことも
選べずにいた
僕らを置き去りにして
地球 ....
痛みを痛みとして見つめながら
あなたは眼差しを地には与えず
自分だけの痛みだと言って、
誰かに分け与えることさえしなかった
花びらは凛として
項垂れること ....
{引用=冬の終わり、
時雨模様
描かれるいくつもの輪のなかで
消えてゆくだけの悲しみがあり
雪にはなれず
かすかな温かさにふれたなら、
降りつもることすらできなくて}
一瞬だ ....
風が吹いて、あたし
かんたんに飛ばされてしまう
未完成な結晶のすがた、まだ
花にはなれない
舞い上がって、遠いところへ
行ってしまうなら、
今がいいと、思ったの ....
青い森の中の小さなベンチ
腰掛けたままの少年は
もうずっと切りとられた空を眺めています
かつて街角の公園だったその場所は
今では小さな青い森
時折少年の握り締めた手紙 ....
校庭の桜並木花吹雪に見惚れる君に見惚れる僕
若葉萌えて黒髪の乙女自転車ノーブレーキ危機一髪
君が読んでた本の栞場所を変えた犯人僕ですごめんなさい
雨の日の ....
雪が白く彩るために切なさは増すのか
薄紫の雪原に伸びる影はただ一つだけ
記憶の奥深くにあの憧憬を閉じ込めて
氷の枝の先に探す冬の太陽は遠く遠く
深く俯いて一月の短い午後 ....
夕暮れの図書館で
あなたは時間を忘れて頬杖をついていましたね
わたしは夕焼けに見惚れるふりをして
ずっとあなたを待っていたのですよ
あなたがわたしを思い出すまで
....
古い町並み
もう、思い出は薄れて
それでもまだ
オルゴールの音はかすかに響いた
緩やかな下り坂の終わり
あの曲がり角を越えて
少女時代が
降り積もった ....
「今夜も夜空が見えない」と
老いた猫が嘆きます
だれも教えてくれませんでした
嘆く猫の目が閉じられたままであることを
だれも老いた猫には教えてくれませんでした
....
丘が燃える
潮騒の果てで
ラムネ壜の中の気泡が何処から生まれ
そして何処へ消えるのかを知っているだろうか
耳を澄ませば聴こえるだろう
遠い海の ....
冬の木漏れ日の中で懐かしい歌を聴きました
懐かしくてももう泣けない自分がいました
それが寂しくてそっと瞳を閉じました
太陽が淡く輝いた冬の日のことです
太陽 ....
冬のくじらは島になりたかった
椰子の木を一本 背に飾って
あの人のために家を建て
そして浜辺を用意した
一人きりの夜に 歌を歌う
夜の海に ....
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