黒猫の話
嘉野千尋



 「今夜も夜空が見えない」と
  老いた猫が嘆きます
  だれも教えてくれませんでした
  嘆く猫の目が閉じられたままであることを
  だれも老いた猫には教えてくれませんでした

  垂れてしまった髭の先で
  星がどれほどざわめいても
  老いた猫は「寝かせてくれ」と答えますし
  しょんぼりしたままのしっぽの上を
  宇宙船が何度行き来しても
  老いた猫は「鼠はもう食べ飽きた」と答えます

  昔、猫の青い左目は月でした
  そして金色の右目は太陽でした
 
  いいえ、夢の話ではなく
  たしかにそうだったのですよ

  黒猫の話です
  
  眠ってしまいましたか・・・?

 
  


自由詩 黒猫の話 Copyright 嘉野千尋 2005-01-09 20:34:53
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