箱庭詩集
嘉野千尋

  校庭の桜並木花吹雪に見惚れる君に見惚れる僕


  若葉萌えて黒髪の乙女自転車ノーブレーキ危機一髪


  君が読んでた本の栞場所を変えた犯人僕ですごめんなさい


  雨の日の窓辺の曇りガラス書付け残した六月の終わり


 「さいん・こさいん・たんじぇんと」白墨の魔法陣描く数学教師
 

 「グッダフタヌーン」呪文を唱える午後の授業帰り道に虹出現


  窓辺から見詰めるだけの恋物語あぁ今日もまた今日もまた


  歌声響く音楽室振り仰いで探すひこうき雲遠く


  思い出を集めて歩く放課後の旅取り残された影一つ


  山茶花の花が揺れたあの窓辺見惚れていたのは誰の横顔


  ぜんぶ思い出にするなんて無理なんだ別れの言葉は言わないで


  さよならを言う練習何度もしました「さようなら大好きでした」


  アルバムの片隅で知らない横顔見せる君にまた見惚れて


  紙吹雪花吹雪隠してください僕の姿ただ今だけは


  箱庭の物語の最後の言葉は「さようなら」ではありません


  「あなたが」「あなたを」「きみが」「きみを」言葉にはならないね最
   後の最後に





短歌 箱庭詩集 Copyright 嘉野千尋 2005-01-30 20:19:45
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