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真実が、
私を知っていれば、
それで良い。
{ルビ空中線=アンテナ}に張ってある
鬼蜘蛛の巣が
霧雨にぬれて
{ルビ銀色=しろがねいろ}にゆれている
風を孕んだかなしみが
失せた振動鳴きつくす
ああ
空中 ....
換気扇が、軋んだ音を降らす。
両親たちが、長い臨床実験をへて、
飼い育てた文明という虫が、頭の芯を食い破るようで、
痛みにふるえる。
今夜も、汚れた手の切れ端を、掬ってきた、
うつろな眼で、 ....
(題を決めるのはあなた自身)
空に舞う幾千の星
掬った雨蛙は星を見ている
まるでそこに行きたがっているような、
つぶらな眼をして
でも蛙たちは気がついていない
蛙こそが星な ....
花弁を剥きだしの裸にして、白い水仙が咲いている、
その陽光で汗ばむ平らな道を這うように、
父を背負って歩く。
父はわたしのなかで、好物の東京庵の手打ち蕎麦が、
食べたい、食べたいと、まどろ ....
朝日影にふくまれた わたくしの陰影が
ありのままの白い骨格で
よるべなく
この家に嫁いで来たのです。
その
わたくしが、
わたくしであるが故に、
わたくしを焼べねばなりません。
そ ....
右向き首の骨を外した
既に瞼は下がりつつ私は土になり、水の底に沈んだ
ひび割れた鏡には今はもう何も映らなかった
「あの日灯した火はもう消えてしまったの」
闇に聞いても誰も答えてはくれな ....
詩 って なんだろうね?
君がぼくに訊ねる
ぼくは 脱いだばかりの
クツ下のにおいを無心に嗅いでいて
君の問いに答えられない
君の目とぼくの目とが ゆっくり重なる
たとえば 早朝の ....
小さな虹色の空の下で
あなたがこっちを見ている気がしたの
昔見た映画みたいに
どこか知らない遠くの町を見ながら
とっても大きな雲が流れた後で
あなたが少し笑った様な気がして
何処かで出 ....
木曜日の朝の雫が絶叫をあげている。
尖った街頭の佇まい。
通勤の熱気をはおったDNAのひかる螺旋の群は、
わたしの散漫な視覚のなかに、
同じ足音、同じ顔を描いていく。
振子のようなまなざ ....
1
ひかりは、不思議な佇まいをしている。
向かい合うと、わたしを拒絶して、
鮮血のにおいを焚いて、
茨のような白い闇にいざなう。
反対に、背を向ければ、向けるほど、
やわ ....
酒がキレた俺とアンちゃんは
「大きな砂浜のある」駅にあてもなく降りる
行商のオッさんはしゃべり好きで
列車の走るあいだ ずっと
ハマグリが夢をみる話とか
食べられる星を手に入れた話とか
....
仕事でヘマをして
渋い顔で始末書を書き
残業の書類の山に囲まれ
気がついたら午前0時
職場のソファーで
目が覚めた日曜日
さえない朝帰りの道
降り出した雨に
傘も ....
あわいにたゆたうスポンジ状の光。向かい側では何を喋っていたか。蝶のトケルマデ、またいで、くらんで、主人公たちにルビをあてる。
後ろの正面に泳いでいる黒衣も、また、体制を整えている。寝返りを打つ度の痛 ....
涙はきっと
優しさの後に流れるから
それはきっと
君が優しい証さ
今日も日が落ちる
水溜まりは雨粒に跳ね
差した傘さえ無駄なくらい
履き古したジーンズは
太股までびしょ濡れ ....
帽子の鍔で
隠した僕の
瞳を君は
見て笑った
指先の繊細さとか
髪の毛の柔らかさとか
感じられる距離に
笑う君が居る
濡れた睫毛とか
唇の濡れた感触とか
感じられる ....
渇いた瀝青の道に散る
ジュエリーの煌きと渦をえがく黒髪
鉛の銃弾は、みごと額を貫通し
――鮮血を枕に眠るオフェーリア。
たぶん、昨日。
黒いシークィンのトップが視線を浴びて
胸元のゴー ....
残虐な貌も一瞬、穏やかな
蒼いヒヤシンスの花に埋もれ
ゼピュロスの風、//そして雷。
――ドドンガーガー!
くちづけをし、離れれば「死、
昼も夜なくつづく 愛撫の舌
首筋の、永い ....
鉛筆の一側面の上半分が
白く光を反射している
右目で見たときと左目で見たときでは
白い光の領域が違う
僕は透明な手を鉛筆へと伸ばすが
途中で疲れて手は霧消する
鉛筆が置かれてあることと
....
くびする糸者
冷れみて 児
かなさり住に
おへよっておへよって
らびが爺ね
東北新幹線の空洞を貫く抒情性を少しも吸収することが ....
玄関のドアを開くと
家族の靴にまぎれ
老人の下駄がふたつ
並んでいた
あたりを照らす
天上の
{ルビ仄=ほの}かな灯り
下駄箱の上に
立て掛けられた
一枚の絵
....
夜のアゲハ蝶の行き先は、決まって、
忘れられた夢のなかの王国の紫色の書架がもえている、
焼却炉のなかを通る。
くぐりぬけて、
グローバル・スタンダードのみずが曳航する午後、
雨の遊園地で、イ ....
本を読む人の眼は
例外なく真っ黒い色をしている
それはもちろん
眼が活字のインキを吸収してしまうからである
本を読みすぎて
白眼まで真っ黒になってしまった人が
こちらを向い ....
深夜の病棟の廊下を
患者を乗せたベッドが幾つも
音もなくしずかに漂流していく
あれらはみな
モルヒネを投与された患者なのだそうだ
おっこちたりしないように
きちんと縛り ....
規則的にしずかに眠らないモーターが
半音階だけその声をあげて
いつの日か再び息づきはじめる時
スキャナーは熊のように鼻をひくつかせ
カウンターは目盛りをゆるやかに揺らし
サーモスタットが ....
おいしいおいしい鱈の目
ほじくりかえす おしたしにするといいんだ
てんぷらもぜっぴんだね 鱈の目
先っぽだけまあるくつまんでみる
まえばでやさしくねぶってみるよ
鱈の目 酢みそであえよか ....
君は
君の家に入らない
雨が降っているというのに
軒下の風を嗅いで前足を舐めている
私の上には屋根があるので
髪に降るよりも
雨は、
硬質な響きで
音の羅列を渉っていく
....
1
眠れない夜は、
アルコールランプの青白い炎に揺られて、
エリック・サティーのピアノの指に包まれていたい。
卓上時計から零れだす、点線を描く空虚を、
わたしの聴こえる眼差し ....
風のなかに
釣り糸を垂らしている
それはおぼろげとなってしまった古い
記憶をせめて呼び醒ますよすがではなく
かなしい決意でも無邪気な思いつきでも
その日の飢えをしのぐための
投げやりな衝 ....
鶯が
桜に色を
わたしています
今日は雨
あなたは
静かに
そういいます
書きかけの手紙
まだ、
ポストへ
出せずにいます
花びらは
雨を乗せて ....
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