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海沿いの駅のベンチに
腰かけた老婆はふたり
ひそひそ話で
地面を指さしている
そぼふる雨の水溜りに
浮かぶ
誰かが落とした
一枚の切符
やがて聞こえる
遠鳴 ....
背の小さい盲目の少女が
ノッポな友達と腕を組み
うれしそうに通り過ぎた
コートのポケットに
両手を突っ込んだぼくは
耳に入れたイヤフォンから
Bump of chicken ....
手にしたペットボトルから
色水みたいなジュースを飲み
{ルビ騙=だま}されたような気がした日
長い間畑仕事をしていた
老人ホームの{ルビ婆=ばあ}やは言った
「昔は農薬なん ....
昨日のゴミ置き場で
幸せそうに日向ぼっこしていた
白い便器の蓋が
今日は無い
腰を痛めて十日間
介護の仕事を休んでいたら
先月の誕生会で
目尻の皺を下げていた
....
棚の上に置かれた
小さい額の中は
去年の祖父の墓参り
過ぎた日の
こころの{ルビ咎=とが}を忘れたように
墓前で桜吹雪につつまれ
にっこり並ぶ
母と祖母
雲 ....
木の幹にとまり
無心に鳴いて一週間
地に落ちて
引っくり返った蝉の亡骸
無数の蟻に
体を喰われながら
丸い瞳に陽の光をうつし
両手を合わせていた
車椅子に座る
小さいお婆ちゃんを
前から抱きかかえる
少し曲がった
「 人 」という字そのものに
なれた気がする
ごめんなさい、ごめんなさい
と繰り返すので
な ....
毎日ともに働く人が
あれやって
これやって
と
目の前に仕事をばらまくので
わらったふりで
腰を{ルビ屈=かが}めて
せっせ せっせ と
ひろってく
そのう ....
丘の上の{ルビ叢=くさむら}に身を{ルビ埋=うず}め
仰向けに寝そべると
空は、一面の海
宙を舞う 風 に波立つ
幾重もの{ルビ小波=さざなみ}を西へ辿れば
今日も変わらぬ陽は ....
うたた寝をしていた
週末の終電を降りると
駐輪場に一台
自転車は倒されていた
それを黙って立て直し
冷えたサドルに{ルビ跨=またが}って
軋んだペダルを今日も漕ぐ
人 ....
机に置かれた一枚の写真
若い母が嬉しそうに
「 たかいたかい 」と
幼い彼を抱き上げている
年老いた母は安らかな寝顔のままに
「 たかいところ 」へ昇ったので
彼はひとりぼっちに ....
もし
きみ が ぼく を
ガラスの水晶のように
見てるなら
少しでも指にふれたら
汚れてしまいそうな
壊れてしまいそうな
世にもきれいなものとして
見てるなら
....
仕事帰りに寄ったファーストフード店
一人座って夕食代わりのマロンパイを食べながら
カウンター越しに君の姿を探す
パイの中から舌先に広がる
マロンクリームの甘さとうらはらに ....