願いごと
服部 剛
丘の上の叢に身を埋め
仰向けに寝そべると
空は、一面の海
宙を舞う 風 に波立つ
幾重もの小波を西へ辿れば
今日も変わらぬ陽は沈む
見渡すと
ひとつ、ふたつ、灯る
無数の街明り
家々の台所から
包丁を手にした後ろ姿の妻が
まな板に葱を刻む音
帰りの電車の座席に座る
くたびれた鞄を抱えたまま眠る夫や
銀色のドアに凭れて立つ
白球を包んだグローブを手にはめたままの息子を乗せて
わが家のある街へと吸い寄せられるように走る
線路上の輪音
( 陽が暮れかかるといつも
( 街の広場にあらわれる幻の回転木馬
( いつまでも年齢をとらない少年と少女
( 宙を回る一頭の白馬の背に跨り
( 奏でる夢の旋律のなか
( 音の無いはしゃぎ声
( 夜毎響かせている
丘の上の叢に
独り身を埋めたまま
仰いだ星空の海に語りかける
「 わたしのほんとうのさいわいは
いったいどこへきえたのか・・・ 」
見渡す街に、耳を澄ますと
街の何処かで呟く誰かの詩を運んで
夜風が耳に囁いた
「 悲しいと回転木馬の夢を見る、
鳴っているのはオルゴールだよ。 」 *
すっかり暮れた夜空に
流れ星
一瞬、光の尾を引いた
* この詩はルナク氏「うたう絵本」(月下工房)掲載の
絵と短歌を題材に書いた詩です。
11連目はルナク氏の短歌を引用しました。