すべてのおすすめ
祖父は
海軍士官学校の先生だった
手を合わせる横顔に
平和を祈っているのかと訊ねたら
そうではないと小さく呟いた
悔やんでいるのだと
小さく呟いて、そして
祈りは何も変えないのだと
....
――Sに
世界は美しいと感嘆する前に
やらなければならないことがあって
誰もがそこへ向かって走っている
完璧なソネットなど書けやしないから
俺の言葉はいつだって
掘 ....
引き出しの奥から出てきた
古ぼけたトランシーバー
適当なチューニングのまま
大和川、南側の土手を
ノイズと一緒に
大阪湾へ向かって自転車を走らせる
いくつもの道を横切って
いくつもの ....
突然、閉所恐怖症ですか、
と聞かれ
慌ててそうじゃありませんと
笑顔を見せる
笑顔を見せたって
MRI撮影室の
空洞の中に居る私の顔は
見えやしない
ただ、
むっつりした顔で答えたら ....
長いサイレンが鳴って
国境を見つけられない
足元の草を
飛び越えてみると
サイレンが
聴こえなくなるかわりに
ネパールとインドの国境付近は深い密林に閉ざされている。失われれば二度と手に入らない暗闇をはらんだ命の混沌。それがジョグ・アレースの森だ。かつてサファルの月、南下したモンゴル軍が侵攻したときにも、この森 ....
いや、
もう私が書かなくてもねえ
素敵な書き手の方はゴマンといますね
じゃあやめるわ
読むだけにするわ
と思うときは沢山あるですよ
あるですよってどうよ
けど、
そういう時に限ってなん ....
今日もまた
直球で肋骨を通り過ぎるほど
大好きな詩に出会いましたよお母さん
もう僕は
この大好きな詩だけを胸に抱き
海へ飛び込んでしまいたい
もう僕は
僕のへんてこりんな詩たちに ....
忍者のように
美しく
妖しい
魔を呼んではいけない
呪いの言葉で
欲しかったのは、技じゃない
求めたのはその先にある
{ルビ術=すべ}
彼方で
....
午前5時
始発間近の空気はいつも冷たくて
そのくせとても透き通っていて
「こんな街でもきれいに見えるね」と
僕たちは手を繋いで歩いている
空もそろそろ明るくなりそうで
誰かが吐いた道端の吐 ....
結婚は雑巾
汚れては洗い
穢れぬようにカビないように
絞り続けて
布はほつれる
愛は悲しみであり
人として
死んでゆかねばならぬ
絶対の孤独の裏返し
孤独と傷の共有
恋は単 ....
夜明け前の道を
自らの高鳴る鼓動を胸に秘め
歩いていく
川に架けられた橋をわたり
駅の改札を抜けて
無人の列車に乗り込む
腰掛けると
発車を告げるベルがホームに響く ....
ゆくえをさえぎる雲は
散っていきました
春です
昨日までの私はふるえていました
波に洗われる消波ブロックのように
、ふるえていました
風に吹かれる朽ちて傾いた電柱のように
、 ....
一月前
長い間認知症デイサービスに通っていた
雷造さんが88歳で天に召された
だんだん体が動かなくなり
だんだん独り暗い部屋に置かれる時間が多くなり
ある日ベッドで瞳を閉じて横 ....
春風にそよぐ{ルビ枝垂桜=しだれざくら}
青空に響く{ルビ鶯=うぐいす}の唄
{ルビ我等=われら}は{ルビ童=わらべ}
肩を並べてさくらを唄う
* 第一詩集「 ....
空を見るのに
上ばかり向いてると
首が痛くなってしまうので、
仰向けで見てみる。
自分の存在と空間に
果てはなく
遮るものが、無い。
ただ鼻づまりだけが
私を遮る。私は鼻をかむ ....
僕の消えていく闇の名前
石炭ボイラーの匂い
江浦路の路面電車が踏みつける
レールの間で腐っていく{ルビ瓜=うり}の皮
入り口だらけの逃げ場所
擦り切れた人民幣
二十五元五角の片道切符
....
みんな何処に行ったのだろう
30歳を超えたときに気がついた
前には誰もいない
後ろにも
横にも
気がついたら
いつでも何処でも
誰もいない
空は
いつものように
明るいのに
不思 ....
気の早い春一番は 潮鳴りのようなおとを立て
町の上空をゆくのでした
「僕ら、結婚するかな」
彼が昨夜言ったことばが、洗っていたおさらから急に飛び出してきて、ひっこめるのに苦労しました。わたし ....
「届かないので割り切りましょう。」
と思っても、どうにもならない事が多すぎて、
手放せなくて、もがく。
一人大声で叫びたくなりそうな夜は、
フラットな現実の世界へ立ち返ろう。
優しい ....
満月が近づくと空気が変わる
だから空を見なくてもそれがわかる
うつむいて歩くと足音が遠のき
夜はいつのまにか
重くなっている
みやみや
絵葉書の風景のように
闇が美しく固定さ ....
ぅはっ
今夜でしょ
明日でしょ
明後日でしょ
その次の朝まで
だいじな だいじな日曜日
誰のものでもなくて
あたしだけの 日曜日
ぅはっ
願いをかけたテラスに
立て掛けてある望遠鏡は
星を見るために
{ルビ存在=あ}るもの
生い茂る草に
宵の露が
降りかかった時
{ルビ覘き口=レンズ}は静かに光る
星 ....
ねえ 君の窓の景色は
何を映しているの
どんなに想像しても
それだけが分からないんだ
ねえ 僕の街の景色は
君の瞳にどう映っているの
僕の窓の景色はガタガタと
風が吹き出した ....
何をすればいいですか
指示を待っています
言われたことはきちんとやります
責任感の強い子です
と
小学校の頃褒められました
公式はありますか
マニュアル通りに動けます
....
カルマのはじっこで
誰にも知られないように
泣いてるヤツがいるのを
ふと、みつけた
なにがあったのか、知らないけど
隠しておいて
あげるから
黙っておいて
あげるから
....
降り頻る悲鳴は
冬の朝に沈み
はち切れんばかりの
黄色は、空に浮かぶ
たまに、青白く光る
僕がいなくなってから
十五日経って
誰かが、奴は月に帰ったんだ
なんて
....
あの暗闇は
くらやみではなくて
照らされていない
本当の姿
あの光は
まばゆいのではなくて
その向こうが見えない
闇の別名
くぐり抜けて
会いに行く
降る雨も、雪も
肌で ....
いつのまにか、テレビの画面には
砂嵐が起きていて
そこに住むヤツらは
顔にターバンを巻いて
ラクダに乗りながら
ノイズで出来た歌を
陽気に歌っている
三十分前にかけたやかん
....
昨日、ゆるせないことを話すひとがいた
その瞳は私に向かってまっすぐ
しかしその瞳の奥にぎらりと光る諸刃の刃
それは許せない事の全てを 私にぶつける眼だった
それは許せない事の全てを 私にも ....
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