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忘れては夏の水底のぞきこみまばたく広さまばたく遠さ
無音から無音に至る無音には尽きた灯の色ただ打ち寄せる
激しくも涼しき雨を走り抜け糸ぬぎ捨てる ....
木漏れ陽や影が
昼の星を見ている
羽は
羽から目をそらす
家の裏の沼には
家が沈んでいる
建つものもなく
枠は増える
翳りが
....
夢の雨がまだ眼前に在り
音や光をふちどっている
雨のなかの陽 ひとつをひとつに
注ぎ込む陽
空の器械 地の器械
水の外から 降り来る声
緑にふくれ ....
共に在るもの無く
原に立ち
なびいている
夜は赤
骨に収まらない肉
あおむけに 沈む
曇を燃す曇
秘め事の径を解き
川はすぎる
木漏れ ....
白の崖 白の椅子
海へ突き出る
骨
耐えられなくなり
あなたの手を取り
月と曇を無理矢理見せる
蒼のなかににじむ灰
丘を昇る星の群れ
言葉は有限 空の手 ....
百年の花が咲く
音だけの虹
昇る夕べ
鳴る穂を抱く
水の穂
指の穂
おまえを
おまえに与えられずに
叫びつづけた 水に映した
明るい貝殻
問 ....
内に向かって壊れた胸から
水がわずかに滲み出している
うすい陽の声
穴の数の息
草が逆に波打つ
濡れた色になる
夜の風のなか
渇いた音のなか渇きを疑う
....
うなじの寒さ
ひとつはばたき
去るものひとつ
来るものは無く
風が
糸のようにわずらわしい
抄い 抄いつづけても
言葉は砕け 言葉は消える
さまよい ....
原野の指
水と稲妻のあいだの子
空になる 花になる
うたにも うた以上にもなる
鉄の筒を風が通る
鉄の籠を轍が揺する
予兆の上の光が吹かれ
石の路地に鳥となる
....
火と火の違いもわからぬうちに
わたしたち とは語らぬように
言葉への畏れを絶やさぬように
入口にある目は
実の奥にある目
森をひとつ逆さまに呑む
水を見たら ....
窓には
ひとつの三日月
ひとりの子と話す
風の音
油の虹
武器はなく
ひとつの羽を得て
ひかりかがやくもの
ひかり失うそのとき
居ること 居ないことを
震わ ....
そこにあなたは
いるいない
いるいない
どちらにもまばゆい
花があり
なぞる
花になれない
指のしずく
そしてあなたは
いないままにいる
いないあなたい ....
色が無くて
血で描いていた
緑の絵の具を
わたす手に触れた
春の花が
葉をちぎり
痛みに泣きながら
微笑み 差し出すようだった
血の枝に
緑の枝が重な ....
午後に吠え夜に己れの洞に哭く肉の{ルビ葛=かずら}に囚われし我
消えてゆくひとりの時間ゆうるりと道に{ルビ描=か}かれた雨音のよに
午後に墜ち静かに ....
火の向こうに
もうひとつの火があり
さらに向こうの火に重なり
ひとつのようにじっとしている
一本の木が
雨を呼びつづけている
丘は近づき
わずかに崩れる
....
何かが去ったあとの高鳴り
大きなひとつの花になり
たくさんの小さな羽になり
微笑みながら消えてゆく
ひたされたとき
見えるかたち
雨はすぎて
胸とくちびる
....
ひとつの炎がてのひらにいて
手のひらのかたちからあふれては
熱も音も伝えずに
あふれつづけるそのままでいる
蒼い羽とむらさきの矢が
吹き荒れていた夜は明け
白い髪 白い ....
かわいた中洲は
鳥に埋もれ
流れはただ
飛沫の跡を運んでいる
望まれぬものが橋をすぎ
影は明るくひろくなり
音や色に梳かれては落ち
にじむように流れを濃くする
....
湿り気のなかに{ルビ詩=うた}があり
半身の{ルビ失=な}い私を{ルビ召=よ}んでいる
{ルビ咬合=こうごう}の色
強制情動
朝は汚い
震えは止まない
声は止まない
....
あの煙突は窓ではないのか
内に鏡が巣喰っているのではないか
めまぐるしく変わる空の色を
まるで気にもとめずに
昼の昼たる所以を
その内部から投影せしめている
あの灰色
あの煉 ....
父親が午後に死んでも腹は減る
眠くても胃が痛くても腹は減る
かゆくてもぶつぶつ出ても腹は減る
もどき詩が詩のふりしても腹は減る
鳴り止まぬ洞のむなし ....
苦しみと悲しみふたつ慣れすぎて触れるときまであなたを知らず
骨と骨あたらぬようにかたち変え心と肉の汗ばむ出会い
苦しみとよろこび混じるあなた ....
丸い生きもの
閉じかけた
小さく細いまなざし
右よりも左が大きい
風で傷んだ
艶の無い肉体
自分のための四肢を失い
うるおいだけがあふれんばかりの
何も感じず
何も見 ....
霧雨が運ぶは遠い音ばかり
我が水の薄さに萎える羽虫かな
触れるたび遠去かる音日々の音
ゆらぐ道ゆらぐ光の水の声
水もとめ{ルビ背=せ ....
蝶の花 蝶の花
土の下へ
飛び去りゆく輪
蝶の花
塩の火 塩の火
燃えつきぬ糸
人の色でなく
向かうものはなく
甘いにおいは風に消え
ただふるえだけが降り ....
夜の中の黒いオーロラ
帯の馬にからみつく蛇
ほどけながら近づく星は
月をかき消す粒の緑
沈むままに 見えぬままに
うごめくものは常にうごめき
まわりながらめぐりながら
夜は水 ....
何もかもがずれてゆく
不幸ばかりがやってきては去る
だが自分はここに居なければならない
自分以外のもののためにここに存在しなければならない
いつかは離れていってし ....
朝陽は腐乱の象徴であり、夕陽は永遠の投影のようだ。あれら飛ぶもの、黒くひろがる亀裂という蛇、警告の業、予言の業は夜めざめ、朝を認識しないまま夜に死ぬ。イカロスの首、徒歩の宇宙、蒸された国 ....
最近、よく喉を詰まらせる。それも食べ物ではなく、飲み物を飲んでいる時だけ、詰まらせるのだ。何故なのかわからないが、そうなってしまうと一分以上、咳が止まらなくなる。最初のうちは苦し ....
さびれた館の馬像の陰から
子供が数人こちらを見ている
塀は陽に照らされ指にやわらかく
その上で子供のひとりが
虫喰いの木洩れ陽を目にあてて笑う
水たまり ....
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