何から何まで
犬の日々だった
私の瞳孔はつねに濡れていて
咽喉の奥はいつも渇いていた
風にさらされて　乾きすぎた手拭いのように
水に濡れた掌を求めていた
何もかもが
犬のようだった

　.... ピアニストの繊細な指だ
白い鍵盤をすべってゆく
まるで水鳥の夢見る羽ばたきにも似た
あるいは
まだ見ぬ色彩を生み出す画家の
狂おしいまでにあざやかな指先
｛ルビ天地＝あめつち｝を踊る風の曲　.... 夜　眠ろうとすると
世界中のあちこちから甥がやって来て
カブト虫を探してくれと言う
逃げてしまったらしい
眠くてもしかたがない
夜はまだ長いから
大勢の甥たちと一緒に
カブト虫を探してや　.... ひかりをふところに浸す、
みどりのまるみが、いのちの数式を
一面につめこんだ、
萌え上がる、眠れる森に、鬱蒼と、
うすきみどりを染め上げて。
満たされた隙間を、みずいろの風が、繰り返し、
　.... 暴力的なラフランス
狂ってごらんなさい　
もともと腐った友達と
一センチの三枚刃
氷砕いて乳首の前でひるんだ夕べ
焦げつく匂いが屋敷の合図

ジュマペール黒のＪ
歌っていたら泡吹いて倒　.... たくさんの予感を箱に詰めて

送ります

その予感にあなたが手を触れる

その瞬間に消えずに残る

そんな予感を確かめたいのです １．

手紙は書きかけのままテーブルの上で黴びてゆく。
青黴、赤黴、黴の色ってそんなに単純だったかしら。
ふくりと黴が起きあがる、
まき散らされる胞子は常に薄い紫で、
私の部屋はすっかり煙　.... 凍りつく落日が、煌々と浮き上がる、
退廃の翼が燃えている丘陵地帯を
毅然としたまなざしが、顔を引き攣らせて、
走り抜けてゆく。
夜ごと、記憶の手帳に書き加え続けた
凛々しい言葉は、荒れ狂う午　.... 歌舞伎役者は
立っているだけで美しい
その凛とした立ち姿は
長い鍛錬の賜物だ

私の言葉よ
おまえは立っているか？
インターネットの言葉の荒野で
おまえは立っているか？ 　.... 水の中に深く潜ると
魚たちの溜息がきこえてくる
どうせ水のある場所でしか
生きられないいのち
われらの時には
乾いた真実が欠けている
ソレイユ！
ソレイユ！
光は水の中にまで入りこみ
　.... 必死に壊れつづけている

飛び散る銀色のビス
耳には音楽のようにつづく歯車の諧音
プリミティヴな装置に
青い微笑み
必死に壊れつづけている

遠くから重く暗い地響きのようなうなり
は　.... たえず流れゆく虚飾で彩られた十字路たちの、
過去の足音が、夜明けのしじまを、
気まずそうに囁いている。
燃え上がる水仙の咲き誇る彼岸は、
すでに、水底の夢の中に葬ってある。
落下する時を　.... どんよりとした鉛色の雨が、わたしの空洞の胸を
突き刺して、滔々と流れてゆく冷たさが、
大きなみずたまりを溢れさせている。
みずたまりには、弱々しい街灯の温もりによって、
歪んだ姿のわたしの言葉　.... 私を含め、消えた人格たちが
小さな箱の中で
仮面パーティーを開く

いなくなった私に問いかける
今さら仮面など
必要なのだろうかと

いなくなった私が答える
どちらにしても
私はも　.... 見送るものは、誰もいない。
錆びれゆく確かな場所を示す
冬景色の世界地図を
燃やしている過去たちが、東の彼方から孤独に手を振る。
知らぬ振りをする眼は、遥か反対を伺って、
不毛な距離をあらわ　.... 光はゆっくりと、枯れたいと願う
誰かの言葉を
爪先まで飲み込んだ、午後
仰向けに動かない
私の側で

ねえ、と
呼びかける言葉の温もり
そんな響きが懐かしいと
思う私があんなにも、遠　.... 　人が日常生活において言葉を発する時、それは普通ごく近い場所を対象にしている。家庭でも、職場でも、あるいは街中でも、言葉は近くにいる人に向けて、または自分がいるエリアの中に存在する人に向けて発せられる　.... 罅割れた道の端に立つ
　　この道は水分を欲している
左腕を伸ばし
拳の先で親指を立てる
すると　車が止まる
あるいは止まらない
二十世紀末という
古代でももっとも新しい時代
私はそのよ　.... あなたは迷うように見上げた

今日の散光を苦い舌でなめて

長い午後を霞ませる問いかけに

指がわずかに答えようとしかけたのを

隠すみたいに柔らかい拳にして

立っていた

　.... あの西の空を埋め尽くす枯野に　
鶴の声がきこえる砂漠を描くあなたは
役目を終えた旅人のように　晴れ晴れとして穏やかです
静まりゆくあなたのその瞳をたたえる　夜のみずうみは
いま　爽やかな風　.... 街は妖しい気配を包んで
機械になってゆきました
段々球体に近づいていって
機械は原口陥入しながら球体内部へ取り込まれていくのがわかります
そうして溝が塞がって
球体が完成する!!
まさにそ　.... 書けなかった詩の断片が
ちぎれた草になって

風に舞っている

いのちは永すぎる未完
死してなお
始まりにさえたどりつけない　未完

私の夜はいつもと同じ旋律を
内側の街路にまきち　.... 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
あなたがいて
華のようなあなたがいて
あなたが動くと、わずかにか　.... さあ
南天
この冬にまだ緑を纏わせて
あなたがいることを知ろう
私が知るあなたというのは
この時節まだ凍てついているはずだが



離れても
違う名を与えられることなどなくて
冷　.... モノクロの描画、朝が朝になって
いつも間違えそうな、窓に走る線のひとつふたつ
数えることを踏みとどめて
大きな朝に、誰もいない交差点に、スクランブルに
点滅する青と赤に、おはようと言うための
　.... 　以前から思っていたのだが、恋愛というものは詩のテーマにするにはあまりにも難しいものではないだろうか。それなのに、やすやすと恋愛をテーマに詩を書く人が多いのは、僕にとっては疑問である。恋愛詩を書くのは　.... 満月が近づくと空気が変わる
だから空を見なくてもそれがわかる
うつむいて歩くと足音が遠のき
夜はいつのまにか
重くなっている

みやみや
絵葉書の風景のように
闇が美しく固定さ　.... 　　　　　ふと思いついて、昔書いた詩を投稿してみま
　　　　　す。一九九〇年から一九九四年ぐらいまでに
　　　　　書いたものを、自分の中では「初期詩篇」と
　　　　　呼んでいます（それ以前に書い　.... （削除） 昨日　切り捨てられた廃線の
駅　構内には
まだ暖かな気が
そこら中に点々と赤味を帯びて
揺れ立っているというのに


朝に　幕
夜には　鉛の月影が
ゆっくりと光りを奪っていくのだと
　....

葉leafさんのおすすめリスト（250）
タイトル	投稿者	カテゴリ	Point	日付
犬の日々	- 岡部淳太 ...	自由詩	10*	06-8-30
美しい指	- 石瀬琳々	自由詩	18*	06-8-19
世界中の甥	- 岡部淳太 ...	自由詩	15*	06-7-9
森の断章——デッサン	- 前田ふむ ...	自由詩	21*	06-7-9
暴力ラフランス	- 木葉 揺	自由詩	13*	06-6-6
贈り物	- mayaco	未詩・独白	1	06-5-17
姿見のうしろの物語	- 佐々宝砂	自由詩	12*	06-5-13
仮面の舞踏	- 前田ふむ ...	自由詩	15*	06-5-7
詩論以前	- 佐々宝砂	自由詩	12+*	06-5-5
不在票	- 岡部淳太 ...	自由詩	6*	06-4-30
incomplete_poet	- 塔野夏子	自由詩	12*	06-4-27
いのちの情景	- 前田ふむ ...	自由詩	14*	06-4-19
冷たい春	- 前田ふむ ...	自由詩	18*	06-4-16
仮面パーティー	- mayaco	未詩・独白	1	06-4-15
喪失—失われるとき	- 前田ふむ ...	自由詩	12*	06-4-12
午睡、散るように	- 霜天	自由詩	8	06-4-9
遠い場所へ届こうとする言葉＿——中村剛彦『壜の中の炎』につい ...	- 岡部淳太 ...	散文(批評 ...	7*	06-4-6
古代人のヒッチハイク	- 岡部淳太 ...	自由詩	10*	06-4-2
バス停	- アシタバ	自由詩	4*	06-3-31
子供たちのバラード____デッサン	- 前田ふむ ...	自由詩	10*	06-3-30
子どもの機械	- 今唯ケン ...	自由詩	8*	06-3-21
未完の夜	- 岡部淳太 ...	自由詩	18*	06-3-14
美しい残像＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿	- 前田ふむ ...	未詩・独白	10*	06-2-28
しとねはさらに美しい目をして	- フユナ	未詩・独白	7*	06-2-25
スイングバイ	- 霜天	自由詩	5	06-2-19
恋愛詩の可能性	- 岡部淳太 ...	散文(批評 ...	17+*	06-2-18
みやみや	- いとう	未詩・独白	11	06-2-16
初期詩篇選集「尾行者の音楽」	- 岡部淳太 ...	自由詩	7*	06-2-12
無題	- 前田ふむ ...	自由詩	5*	06-2-5
終着駅から始まる眠り	- 千月　話 ...	自由詩	14*	06-2-1

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