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1.詩人
一人の詩人は
自らの詩をオルゴールに閉まった
そして時々、宝石が
散りばめられた蓋を開ける
身分証明が必要なときや
金に困ったとき
....
引き潮に雨音が混ざる
夏の浜辺
探せなくなったあの子の
足跡が消える
砂に残る蛇模様
かすんでゆく水平線
瞳の奥でざざんと縛 ....
絶え間ない雨が静けさと共にやってきて
見下ろす街路を濡らしていた。
ガス灯は霧にかすみ
木々は風にゆれていた。
音もなくわたしは窓に触れ
祈りの言葉をそっと呟いた。
ストーブの薬缶がコ ....
君の唇の くれない が
僕の内側を伝い落ちると
日常が育んだなけなしの植物群は
夢見るように朽ちていった
君の爪の くれない が
僕の外側を掻きむしると
日常に着せたつきなみな制服 ....
ほとんどのことは
なんてことないんだよって
どうにかなってくんだって
教わったのは
病院の、ロビーで泣きじゃくるわたしに。
無言で母はわたしが立ち上がるのを待ってくれたね
何時間も
根気 ....
光の跡を指で辿って
途切れては、また
切なる時間の中にいる
瞬きに願いを乗せることもなく
水面に寄り添うのは
想いが透き通るから
清水に耳を傾けるのは
貴方の声を ....
胸の隙間に悪魔は住まう
銀色の透いた髪をなびかせて
くるりとした眼を緩ませて
ただたおやかに笑っている
狡猾な悪魔は隙を狙う
優しさを振りまいて
甘 ....
気がつくと、渚が後ろにあった
最近やけに足が濡れるなと思っていた矢先のことだった
後ろなど滅多に振り返らないから気がつかなかったけれど
ふと振り向くと、後ろに渚があった
ひたひたと波の打ち ....
幸福は青いガラス瓶の中
無理に蓋をこじ開けようとしても
ダメだし
開かないからといって
投げてしまったら
壊れてしまって
二度とは元通りにならない
幸福の詰まったガラス瓶は
やわらかい ....
子供の頃
僕の住んでいる街に薄汚い工業都市だったけど
老舗のデパートが一軒だけあって
母に連れられて買い物をした後で
いつも階段の下の小さなフロアーにある
赤い看板のスタンドに立ち寄るのが
....
いろんなことがあったね
君が二度と目覚めなくなるまでに
最初に聴いたのは「十七歳の地図」だった
レコードに針を落としたとき
魂の叫びが僕を打ちのめした
鳥肌が立って背筋がゾクゾクし ....
希望を持って生きてゆくことは
大切なことだけど
すべてがいつもうまくいくわけじゃなくて
何もかも無意味に思えてしまうときが
僕にだってあるのさ
だからほんのすこしだけ
....
絶望さえ透けていく
初夏の陽射しのもと
雲へ手をふり
永遠する未完の涙
生れ立ての傷が
{ルビ鎖状=さじょう}に結晶し
{ルビ手鞠唄=てまりうた}に弾む午後
幼き声の純粋にひそむ響き ....
やかん
電車内の実話で
ひるま
紫外線をあびていた座席が
まばら なまま
すいてはうまっていた
あいているせきへ
すわれるというのに
ひとり車輛の先頭にたち
いきづかいもなく
....
まだ幻になるには早すぎる夏
したたる汗を拭きながら
影を引きずってみる
昼下がり
気がつけば青信号は点滅し
横断歩道は白くアスファルトを削っている
そしてゆらりと
行き過ぎる ....
子供が行きたがっていたはずの
遊園地に行った
子供が恐がるであろう乗り物
恐がらないであろう乗り物
そのひとつひとつに順序良く
そしてなるべく丁寧に
乗っていく
スタンプカードがたまった ....
時を刻むより他に
自分にはすべきことがあるんじゃないか
時計は思った
けれど何をしようにも
手も足も出るわけがない
ただ柱にぶらさがって
そこはそれ時計の悲しい性なのだろう
正確 ....
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