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Ⅰ
いつか風のあきらめが訪れた
としても僕らが滅びたあとで
なにも伝わらないから頬をつたうのだ
アーガイル柄の床の軋み
骨格があちらからこちら
誰だってそうなんだろう
....
無口な口を縫いつけましょう
言葉は如何にも無粋ですから
帽子をかぶせた
宇宙がかくれた
はばたきながら
地球は夕暮れた
だから、ね……
蚊がうるさいよ
....
バイオリンが弾いてみたかった
しらねぇよバカやろー、と犬に言われ
そりゃそうだわ、と泣いているからね
もう駄目なんだろうと始発とすれ違う
なんでもありませんよ、と千回繰り返してる
二 ....
揚げ過ぎたコロッケ食っとるんや
キャベツなんて高過ぎて買えんしな
なぁ、野菜くれんか、屑でええから
えッ、無理なんやろ、わかっとんや
そんなもんやから
あのキャベツ畑に
行ったん ....
水面をうねり進むのは
中州と呼ばれているものだ
息継ぎもなく川を這う
その背で
菜花の黄が
もえている
微かにひかる
ガラス片
あれは
人の手から
逃れて
中州の鱗に ....
(Q.きりんはくびがだいたいどれくらい
のびるんですか?)
私は街の雑踏のなかのきりんを見たことがある
長い首で歩いているだけで、窓を覗いていると言われ
足下がおろそかになり、ひとにぶつ ....
慄け優しい昼の日差しに
女の帽子の湾曲の叫びを
手を差し延べるのは誰だ
静かに発酵していく発泡と発疹
すべては突き刺さったアイスピック
それはそうだとしてなんでもない
バスが曲がっ ....
耳から咲いたうつくしい花の声たち
眠っているときだけ、咲く花がある
あなたはそれを観る事はないだろう
生きた証し、誰かの
言葉に耳を傾けた証し
母さんの声は咲いているか
愛しいあの娘の ....
あしおとをきいてみよう
どすどす おこってるのか
ばたばた あわててるのか
とたとた かわいいあしか
ちりとてちん らくごかさんかな
ちどりあしの よっぱらい
ずんずんずん つま ....
雨風に家が鳴いているから
壁の写真を剥がして日焼けを数えて太陽を
探しています、乾いた唇が忘れた温度は
カップの欠けた縁みたいに痛覚を撫でる
破いて散らした写真の風吹は夏の嵐を
さら ....
窓を叩いていますのはだれでしょう
だれでもありません、星明かりです
星明かりではありません、月明かり
月明かりでもありません、家守です
家守の足跡追いかけてだれが歩いて
いくのでしょう、 ....
遠雷が鳴る あとかさき
かなかなひぐらし かなしんで
夏の報せ、がたくさん奪っていった
なつのせみはるのせみ黙っていった
遠野で踊るハタタ神、てをのばして
あの遠雷に帽子を被せたい
....
一握の砂ひとつぶの水
すべての生命が埋まる
井戸は枯れ空は満ちて
からぐるまが空を廻す
ひとつぶの星一握の月
滴りまた井戸が満ちて
掌におさまるひとつぶ
如何様にも煌めく澪標
一握の砂 ....
たよりは
いちまいの
いかだ
もじがながれていく
いちまいの
はがながれて
いく
ことばのかわ
りはなく
ながされて
よりそうは
かのように
いかだのうえ
....
あそこで泣いているのはちいさな風の音
あそこで笑っているのもちいさな風の音
草の根分けて風の根わけてくる 風の音
風の子らが草の根わけていく
茂みや屋根を踏み鳴らしていく
坊やの手に ....
北の地を放浪しても
得るものは老いた馬の
澄んだ瞳だけだった
若駒とともに嘶いたが
そのように走れなかった
鞄をひらきぶち撒けて
夢も希望も熱狂も棄て
敗残兵なりに鞄は軽く
....
ねこのお腹は温かい、ね
アスファルトに倒れて
春を殴った肩よりも
ねこのお腹も温かいね
初めて内臓に触れた朝の陽に
射られ冬を齧った犬歯より
切り裂かれていく弧をえがいて
腹でも ....
風が強いから洗濯物を追いかけて
綿毛が背中を撫でていく、さよなら
踏みぬいてしまいそうな青い草地を
蛙が春へと飛んでしまったから
ひとりきりで立ってます
スイカズラの甘い蜜を分けあっ ....
ひとりぼっち、の人は
ひとりぼっちの景色を
知っていて
遠くを静かにみつめている
たまに夜半の丘に立っては
叫んだり泣いたりしている
眠れば星雲の渦にまかれて
わからない ば ....
課題詩『秋の霧』対応随筆
夜勤明けの朝には霧が深く立ち込めていることが、しばしばある。僕の住む地域は盆地であり、すり鉢の底に水が溜まるように霧も溜まり濃い霧の中に町は沈む。視界も悪くなるので、自 ....
陽が次第に落ちてゆるゆると薄暗くなった町を歩いている。信号機の赤で立ち止まる。まだ青が潜むうすぐらく滲んだ空に爪のような三日月が覗いていた。じっ、と真上を見上げればそんな空しかないのだ。雲はどこか、星 ....
海は待っている。誰かを待っている。それは潮風に溶けた予感だ。海へと続く秋の小径に吸い込まれて行く時、私は知らず足早になっていく。透明な水に青いインクを落とした色の拡がりが、あの松の林を抜けた先にある。 ....
風に飛ばされてゆく葉っぱを拾いあげ
それを大切に懐にしまう人をみた
まるで栞を挟むような手つきで
忘れられてゆくはずだった葉っぱが
何か違うものに変わったのだ
ある日、出会った他人同士が ....
ひとつ 齧れば夜が欠けて
林檎は白い肌さらし
屋烏に及ぶ口笛の哀しき音いろに
艶めいて 夜の香りを染めていく
ひとは哀しく身はひとつ
ひとつ 齧れば夜が ....
そろりそろりと剥ごう
皮をつつつ、と剥ごう
夜を剥いで朝を剥いで
私というものが
どこでもない場所で剥き出しで
死んでいる、或いは
台所で皮を剥がれた
剥き出しの野菜や肉に混じっ ....
自分が動けば影が動くことを
不思議に思ってしまった少年は
影の、また、影の連なりに戯れ続け
いつのまにか大人と呼ばれるようになり
ふと、空を仰ぐ、影が空に送られていく
少年は空にあり空は ....
サンザシの花咲き
山椒の粒、匂いはじけ
街灯がポッポッと灯り
夕餉の匂いとけだす
懐かしいその匂い
五月が過ぎてゆく
帰る家もなく
靴はすり減るばかり
腹はぐぅぐぅなるばかり
月 ....
あれはいつだったか
陽炎にゆれながら倒れゆく馬をみた
北の牧場をさまよったときか
競馬場のターフであったかもしれない
或いは夢か、過労死の報を聞いた
快晴の街角であったかもしれない
或 ....
遠い火をみつめている
どこにいても遥か彼方で
ゆらぐこともなく燃えている
あそこを目指していたはずなのだ
臍の下あたりで、眼球のうしろで
わたしのいつ果てるかわからない
火が求めている ....
忘れ去られ、蔦が這い
色褪せくすみ、ねむったまま
死んでいく、そんな佇まい
そんな救いのような光景を
横目に朝夕を、行き帰る
遠くのタバコ屋の廃屋まえ
どんどんとカメラが引いて行き
エン ....
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