目を閉じると浮かんでくる
夏の日 ゆるんだ瞳と影が音もなくさまよっていた
あの日私の時間が揺れた

蝉しぐれのカーテンを開ければ
幼子の手を引いた私が歩いている
名もない道を
あてのない ....
「あなたは神を信じますか」
ふいに声をかけられ、振り向くと、若い美しい女が立っていた。
 鈴木俊介は保険会社に勤務し、主に災害や火災に適応した商品を担当していた。昨今の地震や水害に対応するべく画期 ....
あの日、体のどこかで真夏が沸騰し、けたたましく蝉の声が狂っていたのだろう。
大きくせり出した緑の中で、無心に巣作りをする脳のない虫どもの動きが、この俺をその世界から削除しようと仕掛け ....
結露した鉄管を登ると
冷気の上がる自家発電の貯水層があり
ミンミンゼミは狂いながら鳴いていた
夏はけたたましく光りをふりそそぎ
僕たちはしばしの夏に溶けていた
洗濯石鹸のにおいの残るバスタオ ....
火が燃えている、火はささやかに舞い、わずかな黒煙を伴い燃えている。
すでに燃え尽きようとしているその男は、小さなともしびに油を注ぐ。
日が燦々と差す部屋の片隅の小さな戸棚を開けると、油の瓶が並んで ....
 親戚の家に行く時は蒸気機関車に乗り、二つ目の駅で下車した。ひたすら砂利道を歩き、途中で山道に分け入った。薄暗い山道を息を切らして登っていくと、大きな杉林のある地獄坂と呼ばれる場所があり、そこ .... 崩落したコンクリート構造物には異型鉄筋が露出し錆びついている
圧縮されたすべてのものがついに限界を迎え
一瞬にして広大な大気圏の天辺に分厚い雲が浮かび
ゆがんだ紫色の空間から雨が降り出した
得 ....
郊外の田は収穫のあと放置され、新しくイヌビエがすでに生い茂り、晩秋の季節特有の屈強なアメリカセンダングサが雨に打たれている。
ときおり雨足は強くなるが、大雨になることはなかった。
雨はすべての世界 ....
空気がゆがんで見える夏の日
その横断歩道には
日傘を差した若い母親と
目線のしたで無垢な笑顔で話す少年
ひまわりが重い首をゆらつかせ
真夏の中央で木質のような頑丈な茎をのばしている

山 ....
ガードレールに捲きついた
細い蔓植物が雨にたたかれ揺れている
雨はそれほど強く降っていた
たぶん汗なのだろう、額から頬にかけて液体が流れ落ちている
さらに背中は液体で飽和され
まるで別の ....
私は梅雨空の
とある山の稜線に花となって咲いてみる
霧が、風にのって、私の鼻先について
それがおびただしく集まって、やがて
ポトリ、と土の上に落ちるのを見ていた
私はみずからの、芳香に目を綴 ....
一、石
石には普通、感情はないと考える。しかしある。
石はほぼ性別は♂である。しかし、生殖はしない。無機質なものには♂という性別があるものだ。
石は考えることが好きである。ひたすら考える、そ ....
暖簾をくぐり、席に着く。
「もり大盛り」
静かに言う。
店員が厚手の湯飲みをことりと置く。
その半分を飲んでいるうちに蕎麦が運ばれてくる。
どんな蕎麦がくるのだろうか、初めて会う人を待つ ....
木である私は風を感じている
昨日の曇天は特に蒸したが
今はどうだ
沢筋からの一縷の風が
梢をこすり私の腋の下を涼やかに通り抜けていく

かつて私にも過去があった
たとえば私の前で作業をし ....
白んだ朝
淡々と家事をこなす女たちのような夜が明ける
現実の襞をめくると、憂鬱に垂れ下がった雨が、湿度と共に滞るように霧状に落ちている
五月の喧騒は静かに失われている 

  ....
降り続く白い冬
いまはただ
うつむいた雪が
降り積もってゆく

脊髄が 錆びついてくるのを感じる
骨が膠着し 何も言わなくなると
ますます冬は
冷たくよそよそしくなる
寒さが喉で固ま ....
夜の海をゆらゆらと私は舟を漕いでいた
天球の子宮のような空間
おだやかな潮の香りがおびただしい生を封じ込めている
櫂の力を緩めると島が見える
オレンジ色のひかりを放ち島がゆらめいている
火の ....
漂っている
田の畦の
名もない雑草の根元に
捨てられた溜め池の
透き通る水の中に
細い目で鳴くアマガエルの喉に
咽び泣くような曇天の中の
炭焼き小屋の煙の中に
確かに漂っているのだと思 ....
君がまだ小さい頃
仕事が一段落すると
すこし秋めいた アスファルトを歩いたっけ
まだ うまく喋れない君の
小さな手を引きながら
やっと歩くことのできる君にあわせ
二人で歩いていた
あたり ....
梅雨の季節に君に遭い
雨の中の紫陽花に君をみた
幾重にも重ねた肺胞の中に
君はすべてを吸い取って
僕は君の吐息の中に埋もれた

暑い夏が来て
君の髪から砂粒がさらさら流れ
僕の耳に入り ....
 その店はあった。
 丘の上にポツリと立ち、遠く工場の白い煙がもくもくたなびいている。小さな木製の看板に無造作に書かれた、種屋、の文字、周りはトタン板で覆われ、回りには見たこともない草が生えている。 ....
煙突の突き出た丸太で作られた小屋
男は荒砥、中砥、仕上げ砥をそれぞれ一枚抜きの板におき
刃物を研ぎ始めた
小屋の中には丸いストーブがごうごうと燃えている
小屋の一角には一昨日捕らえた鹿が横たわ ....
澱んだまなこが粘りつく液体となってずるずると年月を嘗め回している。あふあふと飯をさらい込み、ゲテモノを隅から隅まで食いつくし、寄生昆虫のように板にへばりついている。自己憐憫の色艶がどす黒く光り、ねばい .... 少女達は駅の回りでたむろしていた
少女達は皆乾いていた 
全てのものが無機質な情景の中で
既に前からそこに居たように乾いていた

見えない虫の魂がボウと浮かび上がり
それはまるでカゲロウの ....
蚊が喜んで
私の上腕の血を飲んでいる
尿酸値も高く
触れたくないが血糖値も高いかも知れぬ
健康な血ではなく
ちょっとヤバイ
その蚊を見ていると
ふと思い出してしまうんだ
君の事を。
 ....
「こうなって あういてう」 指差す君
「こうなって あういてうぅ」 何回も
「へんな ロボットぉ」 僕に訴える
こうなって・・・
25年前の君の声が
僕がうなずくまでずっと



小 ....
 

 小さなザックを背中に背負い、懐かしい山村のバス停で下車した。少年時代を過ごした村である。すでに稲刈りも終わり、刈り取られた稲の株から新しい新芽が立ち上がり、晩秋の風に晒され微かになびいてい ....
一日中 しとしとと降り続いた雨ははたと止んでいる
ガラス越しに稜線が見える
夕焼けに染まった稜線
砂漠の上をラクダがとおる
ゆっくりゆっくりラクダは右に動く
あまりに美しく あまりにも悲しす ....
遠く時空を超えると
幼い君がいた
「おとーたん、どうじょ」
ぷつんと もいだ野紺菊を
ぷるぷるふるえる手で差し出す
薄紫の舌状花をつけた花
稲藁のにおいがする午後の柔らかい日差しの中
君 ....
汗ばんだシャツを背負い
夕暮れを歩く
橙色の入道雲が
薄闇に沈みかけた蒼い空に黄昏ている

少しむっとしたアスファルト
鬱血した時が、俄かに開放されようとしていた
沈静が流れはじめる
 ....
山人(182)
タイトル カテゴリ Point 日付
青の眠り自由詩5*14/10/17 6:17
散文(批評 ...7*14/9/9 17:09
発芽自由詩6*14/8/13 7:03
夏休み自由詩8*14/7/12 7:33
火と水自由詩8*14/6/12 4:48
親戚のひと自由詩3*14/3/8 17:53
自由詩6*14/2/19 17:06
帰化植物自由詩9*14/1/24 17:23
夏の横断歩道自由詩21*13/8/29 7:17
amaoto自由詩5*13/7/25 7:24
ときには花となって自由詩5*13/4/22 20:37
石・草・虫など、その概念と考察自由詩4*12/12/9 15:57
「蕎麦っ食い」自由詩9*12/10/24 16:16
自由詩4*12/6/13 17:06
行方自由詩10*12/5/12 7:12
あしあと自由詩21*12/2/28 8:12
燃える島自由詩8*11/12/13 6:16
漂っている自由詩8*11/12/5 5:56
エノコログサの思い出自由詩17*11/9/22 15:13
秋風自由詩11*11/6/30 15:21
種屋自由詩3*11/4/9 6:15
男と冬自由詩3*10/12/28 18:23
影を貪る自由詩4*10/12/22 11:51
乾いた少女達自由詩10*10/11/4 4:32
かにに食われたんだよ自由詩4*10/10/30 6:38
オレンジ色のスキー靴自由詩3*10/10/29 15:36
ゆく自由詩0*10/10/19 9:36
稜線のラクダ自由詩2*10/10/18 9:26
野紺菊の咲く頃自由詩22*10/10/13 4:47
一番星自由詩2*10/10/9 7:08

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