{引用=内から喰われる}
くちびるから離れる熱い器
つかもうとして膨らんだ白い手は光にとけ
網膜にしみる青さをかもめが掻っ切った
上澄みだけ日差しに毛羽だった 
時のよどみ底なしの 泥夢―― ....
{引用=散策思索}
イモリの仔の孵る日差しを思いながら
心当たりのない手首の痛みを弄ぶ
晴れた寒い昼下がり
氷結した河口の端を恐る恐る渡って行く
至る所に鳥や狐の足跡
人のはひとつだけ
 ....
{引用=鳶}
暮れかけの空
トンビたちは思い思いの弧を描く
風に乗り
風を切り
風を起こし
また受けて
狩りの照準を
時折水平に起こし
淡くたなびく雲の帯を
くぐるつもりか遠く巡っ ....
{引用=愛憎喜劇}
遮二無二愛そうと
血の一滴まで搾り出し
甲斐もなく 疲れ果て
熱愛と憎悪
振子は大きく揺れ始める

愛も親切も笊で受け
悪びれることのない者
理解できずに困惑する ....
真っ逆さまの光の頂
 集めた八重歯を笊で濯いで
女は大きなアサガオの
   白い蛾に似た花を吸う
小さな蜘蛛が内腿の
      汗の雫に酔っている


生木の煙 風の筆
飛び交う無 ....
{引用=予想図}
わたしの人生の尺に
息子の人生の尺はまだ収まっている
わたしの息子への関心は非常に大きく
息子のわたしへの関心はそれほどでもない
{ルビ直=じき}に息子の人生はわたしの尺か ....
{引用=冬の朝顔}
白い背表紙の本を開くと朝顔の種が落ちて来た
種は発芽して瞬く間にわたしの妄想に絡みつき
ひとりの女の形を編み上げると濃淡を宿す紫や白
水色やピンクの花を幾つも付けたのだ
 ....
{引用=生者と死者}
安全地帯の植え込みで
ラベンダーは身を縮める
風花の中
一株一株寄り添うように

周囲には細く背の高い
雑草が取り巻いている
枯れ果てた骸骨たち
立ったまま風に ....
{引用=道程}
一つの結晶へ
近づくほどに遠ざかる
道程の薄闇
ああ目を凝らせ
不安を透かした薄皮を
一枚また一枚と剥離させ
焔のような白い裸婦像が
現の真中の空ろを炙る

  * ....
{引用=最悪について}
第一に
記憶と紐付く負の感情一色に染まった景色を満喫しながら
自ら最悪だと帰結する狭く閉ざされた思考の環状線を延々
巡り続ける一人旅

第二に
自覚のない最悪人間 ....
{引用=銀杏一葉}
フロントガラスのワイパーの圏外
張り付いた銀杏一葉
冬の薄幸な日差しに葉脈を透かして

用途を終えて捨てられた
ひとひらの末端 美しい標本
飛び立つことはないはずなの ....
{引用=うつけもの}
わたしの頭は憂鬱の重石
悩みの古漬けぎっしりと





{引用=しゃくりあげて}
願いは鳴いた
言葉を知らない鈴のように
子の骨を咥え 風の狐が走る
芝 ....
{引用=彫刻}
折り畳んだまま手紙は透けて
時間だけが冴える冬の箱の中
なにも温めない火に包まれて鳴いた
繭をそっと咥え
欄干に耳を傾ける
肌に沈む月
纏わる艶を朧にし
蠢く幾千幾万の ....
{引用=湿度計}
乾いた悲哀に触れる時
こころは奥から浸みてくる

湿った悲哀は跨いで通る
乾いたこころが風を切る





{引用=〇〇主義に痴漢する
 Ⅰ}
知識は雄弁で ....
{引用=斜陽}
やすらかな捻じれ
霙もなく恥じらう蔓草の
浴びるような空の裂帛
戸惑うことのない白痴的漏出に
{ルビ栗鼠=りす}たちの煽情的リズムと釣り針式休符
聞き耳すら狩り出した
落 ....
{引用=逆説的}
ルイス・キャロルが実在のアリスを愛し物語を捧げたように
わたしも捧げたかった

わたしも溺れたかった
ボードレールがジャンヌ・デュバルの肉体に溺れたように

高村光太郎 ....
{引用=猫}
雨色に染まり
濡れそぼつ猫のよう
辻を曲って忘れ物
取りに戻ってそれっきり
溺れるほどにこらえ
秋桜 斜めに見やり





{引用=病葉}
山葡萄は美しく病み ....
{引用=ネズミ}
ネズミが死んでいる
毛並みもきれいなまま
麻酔が効いたかのように横たわり
玄関先のコンクリートの上
雨に濡れて隠すものもない
死んだネズミは可愛らしく
人に害など決して ....
{引用=無邪気な錯覚}
窓硝子の向こう木は踊る
風は見えない聞こえない
部屋に流れる音楽に
時折シンクロしたかのよう

時折シンクロしたかのよう
異なる声に欹てて
異なる何かに身を委ね ....
{引用=小乗奈落下り}
薄皮一枚
力ずくの力が萎えた両腕で
無垢な羽ばたきを模索する

庭園の苦行者は薄幸の煌めき
傷口は各々レトリックを備え
投げやりな否定で自らを慈しんだ

最初 ....
{引用=リバーシブル}
雨の{ルビ詳=つまび}らかな裸体と
言葉を相殺する口づけ
水没して往く振り子時計閉じ込められて
中心へ落下し続けるしかない時間
1095桁のパスワード
{ルビ木通= ....
{引用=幼恋歌}
暑さ和らぐ夕暮れの
淡くたなびく雲の下
坂道下る二人連れ
手も繋がずに肩寄せて
見交わすこともあまりせず
なにを語るか楽しげに
時折ふっと俯いて
風に匂わす花首か
 ....
{引用=傷}
抗わず流されず
風と折り合いつけながら
トンボたちは何処へ往く
銀の小さな傷のよう
翅で光を散らしながら





{引用=白紙のこころ}
尖った波に足を取られる ....
{引用=熟れた太陽}
暑い日だった
「スキンヘッドの大工さんの日焼けした後頭部に
もう一つ顔を描いて冷たい水を注ぎたい 」

マスクをした金魚がエアコンの波に裳裾ひらひら
上気したザリガニ ....
{引用=招待状}
時折 招待所が届く
ある時はコクトー
ある時は犀星
畠山千代子だったことも
メルヴィルの白鯨の一章だったりもする

だからと言っていそいそと出かけはしない
しばらく触 ....
{引用=影法師}
セイタカアワダチソウの囁き
太陽と雲のコラージュ
目隠しする乳房
一瞬で潰れた空き缶の音
湖水に跳ねる金貨 落ちる鳩
鉛筆を齧る数学教師のポケットの
癲癇持ちの日時計
 ....
{引用=蝶の行方}
レモン水の氷が鳴った
白い帽子に閉じ込めた
蝶はどこへいったのか

太陽が真っすぐ降る
眩い断頭台から眺めていた
あの蝶の行方

自殺した詩人
現実を消去して残 ....
{引用=散歩道}
彼女は二つの嘘を連れ歩く
いつも同じコースで
一つの嘘は人懐っこく誰にでも尾を振った
一つの嘘はところ構わず吠えたてる
どちらも夜のように瞳を広げ
油膜で世界を包んでいた ....
日暮れ前
誰も彼もが瞑り合掌し
高く掲げた花
   賜りものか捧げものか



            《2020年7月26日》
{引用=首}
なだらかな午後
ただそれ自体の円みと感性で
転がって
吸血する問いとなり
落下する 分裂の暗い谷へ

隠匿されていた
真っ赤な夜が溢れても
目交いすらなく
過る夜鷹に ....
ただのみきや(1061)
タイトル カテゴリ Point 日付
眼のない光自由詩4*21/2/6 18:58
美しいヘマのしでかし方自由詩5*21/1/30 16:49
視破線自由詩4*21/1/23 14:49
サイレントチンドン自由詩8*21/1/16 17:48
中る自由詩5*21/1/9 12:55
哀愁の強行軍自由詩7*21/1/3 12:45
冬の花びら時の河面自由詩4*20/12/27 16:48
寒波と二日酔い自由詩6*20/12/20 15:24
隠喩のような女たち自由詩2*20/12/12 16:59
悲しみは理由を求めている自由詩5*20/12/6 1:11
空論のカップに口を付ける冬の横顔自由詩5*20/11/29 14:55
返り討ちに合った復讐者自由詩5*20/11/25 11:44
どうしてこんなに暗いのかしら自由詩6*20/11/15 15:42
怨念の赤い糸自由詩6*20/11/8 14:36
鏡の仮面劇自由詩3*20/10/31 21:22
恋人と爆弾自由詩5*20/10/24 21:28
終日秋桜寝る子も起こす自由詩3*20/10/17 16:59
人体実験自由詩2*20/10/10 16:26
詩と音楽と酒自由詩9*20/10/3 14:46
熟れた悪意の日々自由詩2*20/9/26 20:04
死と詩と虫と自由詩4*20/9/19 20:49
夭折自由詩10*20/9/12 16:06
李家の人々自由詩4*20/9/6 15:12
延長戦自由詩5*20/8/29 21:27
フロントガラスにちいさな蝶が止まった自由詩2*20/8/23 19:13
死者の戯れ自由詩4*20/8/14 20:32
夏の囚われ人自由詩2*20/8/9 14:06
なしごころ自由詩4*20/8/1 21:28
ねむの木自由詩2*20/7/26 17:48
早贄自由詩4*20/7/25 20:45

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