リアルには実態がない
 わけではない、勿論
 ただそれが波及する場所に
 なにかしらの不具合が
 生じてしまうのだ、きっと

 リアルはとても
 いたずらっ子だから

 リアルは
 ....
目覚めると真っ先に君の二の腕を求めた内側から蝶の刺青を浮かび上がらせるそれを僕はどうして失ってしまったのかほとんど無自覚のまま

本当に美しい言葉は永遠でも真実でも物語でもなくあなたの唇が開いたと ....
 敷地のすぐ南側に土蔵がある
 今や歴史はすっかり耄碌し
 殆ど零れ落ちた漆喰のそこを
 しかし私は依然として
 こよなく愛でる

 穏やかに晴れた日は
 土壁の体温が心地いい
 昼下 ....
 ゆで加減に失敗した海鮮パスタを食べていると玄関のチャイムが鳴って、ますます気分が滅入った。お届け物でーす。ドアを開けるなり、男性宅配員の間延びした声とともに――これはなんだろうか――賞状などをしまっ .... いつの日か漂着しなければならない比喩を
前もって鑑賞されていない博物館が生み出された由は
ある地層に転換して僕達の無知だと言える

いらないいらないそんなゴミより
確かに愛せる媒体を確保して ....
 ボクはいつも此処にいる
 地上に立って
 たまには怒ったり
 自由に哀しんだり
 している

 ボクは
 社交辞令と
 コンクリートが嫌いだ
 歌うのは下手だけど
 口ずさむくら ....
 父さんはニ層式洗濯機の中で
 ぐるぐる洗われている
 家族みんなに
 臭いって言われるから

 姉さんは乾燥機の中で
 父さんと同じように
 だけどひっそりと回っている
 好きな ....
 〇悲しい、天竺まで赴いて買い求めた冷蔵庫が以前使っていたものとまったく同じだったときみたいに悲しい。

 〇頭の上にある見えない天蓋が少しずつ落ちてきていることについて知らぬふりをつづけるの ....
魚の小骨のように胸腔にナイフが引っかかっております。
子どもの時分からずっと引っかかっているのです。

(おかしいですか?
 たいして悩みでもないのですが、
 やみつきだなんてとんでもない。 ....
 僕の彼女は半月に一度、まるで発作を起こしたかのように暴走する。これは別に大げさな言いまわしなどではなく、「そのとき」が来ると、彼女は急に地面にうずくまり、体をふるわせながら獣の咆哮を響かせるのだ。目 ....  いっぱしのおとなになりてえ
と泣きながらうそぶく四十男を
わたしは胸の中に招き入れる
 いっぱしのおとなはつまらないわ
と慰めてあげることも
 いっぱしのおとななんかくそくらえ!
といっ ....
 「泣き腫らした家」

 その家は号泣する
 時間を失った丘陵にたたずみ
 家主の帰りを待ちわびながら

 その家はときどき夢想する
 彼女が門扉を開き
 飛び石伝いにやって来るさ ....
 生まれたばかり――
 あまりにもまぶしかったので
 まぶしい と
 叫んだはずなのだったが

 揺籃期――
 プロレタリア文学だと称する
 ひなびた小説を口に入れるが
 不味くて ....
 辞職願には「一身上の都合」とだけつつがなく書いたものの、本当の理由は「生きることによる倦怠感」であった。生きる、という本質的な目的がわたしの中で、ピントの合わない眼鏡をかけているように、急にぼやけて ....  明るい心臓の奥深くに
 私のかたちに似た木が一本
 ひっそりと佇んでいる

 その木は、
 常緑と呼ぶにはいささか
 難解で
 落葉と呼ぶにはいささか
 陽気である

 そし ....
 「骨音」

 その森の中のまぶたは
 たいへんうつくしい

 背骨を失った世界よりずっと

 まぶたに広がる昼下がり
 湖のほとりで
 老人は 骨を拾う

 露の輝く草を分け
 ....
 母が私の靴をはいて出てしまった。
『せちがらい世の中です。どうか探さないでください』
 朝起きると母の書き置きがあった。あまりにも淡白なセンテンスだった。私は泣きながらトーストをかじり、泣きなが ....
(私はいつも仰向けで寝入り
 決まって仰向けで目を覚ます)

その日天井のしみは、妹のクラスメイトの顔だった
昼下がりに学校を早引けしたきり妹は姿をくらました

(私はいつも仰向けで寝入り ....
 おととい、この町はもう終りだと誰かの「影」が千鳥足でふらついたまま標榜したのがはじまりだった。

 きのう、よその町の「影」が焦点の合わない眼でニヘラニヘラ笑いながらやって来て躊躇なく私たちの「 ....
 もうふた月ほどたつだろうか。わたしは毎日、すこしずつ家財を捨てている。家財、といっても、どれもさまつな――そのほとんどは夫と共有して、それなりの思い出がつまっているのだろうが、もはやさまつとしかいい ....  ある科学者は、そこで対になる点などセカイの怠慢の極みだという。
 ある考古学者は、われわれが日常で行っていることはすべてその向き合う点のバランスだという。
 ある文芸評論家は、点は一つの空間に一 ....
 昔、近所に即興詩人がいた。即興詩人は髭を剃れば三十代前半で、無精髭のままだと五十代後半といった容貌だった。優しそうな一重瞼と筋の通った鼻と、あと、誤って舌を噛んだら痛そうな犬歯が印象的だった。背は小 ....  もともと世界は一連の階段だった
 一段一段に彼がいてあなたがいて僕がいる
 その下には彼とあなたと僕のご先祖様がいて
 「あ」が「あ」になるように「さ」が「さ」になるように
 首をひねって
 ....
 目には見えないが
 確かに巨人の朗読が聞こえる
 すぐ近くにいるときもあるし
 間遠いところから
 細々と聞こえるときもある
 詩や あるいは詩が

 巨人は聖書のゴリアテとは
 一 ....
 メモを取る行為こそ自己採掘につながると妄信する彼女は、だから電話の最中や手持ちぶさたのときなどに思いついた言葉をすべてメモせずにはいられなかった。そして眠る前に、その日のメモ用紙を一通り眺め、自分の .... (てらてら笑うニンゲンはたいがい……)

ずっとむかし叔父のいった
そのつづきを思い出そうとする

(てらてら笑うニンゲンは)

 (たいがい……)

  (たいがい……)

  ....
あなたはとても照れくさそうに笑うそれを見るとわたしは無性にいとおしい気持にあふれる

(わたしたちの愛に余裕はないのだから)

偶然だねとかいっしょだねとか聞くとどうもその手には弱いみたいあな ....
真に円いものなど
何一つとしてありえない
にもかかわらず
孤独を円く円く
よりやすらかなかたちへ
よりあたたかなかたちへと
僕はひどく愚かだった
とはいえ限りなく球体に近く
蹴っても投 ....
 たとえあなたが農夫でも農夫でなくてもあなたが文章家でも文章家でなくてもあなたが小鳥でも熊でも蛇でもあなたが空でもあなたが風でもあなたが土でもあなたを好きわたしはずっとあなたのそばにいるあなたとキスを ....  会えてよかったですあなたが遠いところに行ったみたいで淋しかったから一つずつ小さな部屋の窓ガラスが静かに開け放たれていくようなお話かしらあなたがこれからも清潔な歌をうたいますように瑞々しい歌がうたえま ....
豊島ケイトウ(33)
タイトル カテゴリ Point 日付
リアルのすべて自由詩14*10/11/26 11:05
蝶の刺青自由詩12*10/11/23 11:46
土蔵の中の子供自由詩11*10/11/16 11:25
そこらへんにいくらでもいる人散文(批評 ...15+*10/11/11 11:46
田舎のスーパーマーケット自由詩6*10/11/11 11:29
此処にいる自由詩7*10/11/10 11:28
ちぐはぐな家庭自由詩28+*10/11/6 16:31
諧謔集自由詩8+*10/11/6 9:18
反映自由詩17*10/11/1 13:35
今夜の月は綺麗だね散文(批評 ...4*10/10/30 8:57
情事自由詩9*10/10/29 9:07
泣き腫らした家/泣くまでの経緯自由詩14*10/10/26 12:04
軽妙なるクロニクル自由詩14*10/10/21 16:32
ゆるやかな生活散文(批評 ...18+*10/10/18 18:34
私のかたちに似た木自由詩13*10/10/15 9:25
骨音 他二篇自由詩16*10/10/10 17:59
母の靴、私の靴散文(批評 ...18*10/10/6 10:14
しみ自由詩17*10/10/2 9:33
「影」自由詩4*10/10/1 10:12
花冷え散文(批評 ...14+*10/9/27 14:48
ボクが夢で見た楕円またはその中の二つの点について自由詩5*10/9/23 10:13
即興詩人散文(批評 ...4*10/9/19 17:19
無題自由詩6*10/9/19 17:05
朗読する巨人自由詩15*10/9/15 13:58
誕生散文(批評 ...3*10/9/15 13:26
てらてら笑う自由詩10*10/9/12 10:00
日向のころ自由詩8*10/9/8 9:59
自由詩12*10/9/5 14:04
十一月自由詩12*10/8/26 21:27
六月自由詩17*10/8/3 11:55

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