白は語らない
ただそこにいる
白は何もないのではない
例えば インクの切れた
活字印刷の無数の痕跡
白は哀しみ
言葉の過剰に
震える
指先
聞こえる
時空の闇から
朱色に彩られた土の
古代模様を揺らす
不規則な
太鼓の音
琴の音
風の音
一つ一つ
掌で確かめるように
音の手触りを
拾い上げる
見開いた眼の中を視線が焦点を合わせ切れずに彷徨(サマヨ)っている。ずっと前から途切れたままの会話。時間だけが過ぎて行き置き去りにされる二人。もう帰ろう、と後ろから聞こえた。女のうるんだ声が聞こえる。 ....
月が
寄り添うように
ついて来る
月のある夜空を
見ていると
ずっと昔の
大学からの
帰り道
詩人の恩師と
よく坂を下りながら
月を見上げて
あれは上弦の月
下弦の月 ....
夕暮れの
微風が
吹き始める頃
花びらは
薄闇を
舞い始める
別れ際の
短い言葉
言いたかったのに
言葉になる前に
掌から はらはらと
溢れ落ちてしまう
桜の花の
序 ....
ウンディーネの
こころの中の
森には
小川が流れている
古い
悲しい
物語が
赤い糸の輪のように
ぐるぐる廻る
騎士とニンフの
終るために
始まる
物語
水界の定めに
....
白くてまるい
春の光の中で
やさしく
若葉をゆらす
風が見える
ひとしきり
雨の後の
青空を
見上げると
春は
ミもココロも
軽くなる季節なのに
青過ぎる空が
哀しいキモ ....
本当のワタシ
が 誰なのか
分からない
自分探しの旅?人を
演じる
ワタシの中の私
誰もが
と口走る不遜
箱庭の迷宮を
ディスプレイする
わたし
世界という仮面
もう これ以上
とどまれない
若葉の葉脈の
雫に
世界は まばゆい
光に満ちて
耐えている
どこから
来たのか
もう 忘れた
朝の 光の中で
わたしは いつか
い ....
……
醒める前に
暗転した
夢の断片の
堆積を 見上げる
…の夢の記憶
永遠に
つながらない
ラッシュ・フィルムの
編集を
断念する
繰り返し繰り返す…
青空から ....
今朝
気まぐれのように
寒風の中を
雪が舞った
空を見上げると
気配すらなくなり
いつもの朝が始まる
本当は
雪なんて
降らなかったのかも知れない
雪の降り始めは
....
暗い車輌が
過ぎて行く
きしる車輪の
音を残して
どこかに消える
儀式の時刻
中空を漂う
待ち人の視線
遮断された
昨日・今日・明日
の私
セカイを切り取る
すると
跡形もなくなる
日常は
コピー & ペースト
の繰り返し
セカイが
手にとれるもの
と思っていた
切り取った空間の
実体は
くぼんだまま
くぼみを埋め ....
朝日が眩しい
視線の蛇行を
押さえ付けようとして
けものの息を吐く
人語を解さない内耳
に地面の足音が脈打つ
前世が
ひとか
けものか
草木だったか
忘れた
目に映るものには
....
ぼってりと
赤い花びらが
葉の間に
傾げる
月の光の冴える頃
時満ちて
ゆっくり
地面に
落ち
横たわる
花びらを
伝い落ちる
露は
誰?
三月の終わる頃
闇に紛れて
声がする
ずっと つぼみのまま
咲かなければいいのに
昨日は春の嵐
つぼみのままの
枝が落ちた
桜は咲き始めとか
散り際だ
とひとは言う
つぼみ ....
あの時
何を見ていたのか
白い紙の皮膚の上を
一度だけすれ違う
その時の
微風 に
時間が揺らぐのを
万年筆の
筆跡を見ていると
それは
痕跡のように
美しい
ブルーの濃淡 ....
夢うつつの
柔毛(ニコゲ)の感触
ずっと
夢みていれば
良かったのに
ひとの気配に
目覚める
微かな風の向き
古い記憶を
呼び醒ます
匂い
知らないひとの
匂い
過ぎ去 ....
闇は流れに沿って
やって来る
人が家路につくのと
入れ替わり
闇は
枯れた蘆原を
遠巻きにする
人のいなくなった
土手には
点々と
花びらのように
落ちている
要らなくなったの ....
それは…
曇り
後朝(キヌギヌ)の
椿の花びらの露に
怨言(カゴト)を残し
鈍色(ニビイロ)のこころ
まだ桜には早い
三月初めの
とある一室の
窓際のお雛様二人
ガラスの向こうは
初春の霙まじりの雨音を
聞いている
湯の中で
桜漬けの花びらが
ゆったり 咲(ヒラ)いて
ふわりと
....
冬はすでに去った
夜明け前の闇の曖昧に
ふいに訪れる山茶花の幻影 散った花びらの
乱れ重なり
誰かの記憶が
隙間に紛れ込む
宛名不明の手紙のように
開封されない
誰かの記憶
美し ....
ふと 冷たいものが
ほほをよぎる
おもいになりきれなかった言葉のつづき
面影が
しだいに遠のき
消え入りそうな雪に
霞んで
一人ここにいる
わたしの影
幻のように
きらきらと
雪 ....
橋の真下
満潮の重苦しいざざ波が
明滅する光を
散り散りにする
夜景がきれい
と誰が言った?
傍を通過する
自転車と通行人
何度も取り残される
私
橋の向こう側に
渡 ....
夏の終りは
ある時
死を意味する
ふと やんだ蝉の声
鳴かなくなって
地に落ちる時
景色が 突然
逆さまになった
陽の光が眩し過ぎて
あっという間の
地上のいのち
季節の移ろい ....
古いエレベーターから
押し出される
と 瞬間
何かとすれ違った
懐かしい後ろ姿を
感じながら
会場に入ると
過ぎ去る時間のように
たたずんでいた
透明な光の重なり
と
前髪と瞳
....
冷たい雨粒を
頬に感じながら
いつか 夏は終わる
あまりに力を
入れ過ぎたので
折れた鉛筆の芯
車のフロント・ライトに
長く伸びる
二人の影の
行方
去って行く
夏の足 ....
以前
河口の先には
広々とした
流れがあった…
いつからか
記憶が途切れる
埋め立てという
埋葬が始まる
そうして
出口のない流れになり
通過して行った
それぞれの記憶
が い ....
それから一年たった
橋から見える
盲腸のような川は
廃虚の「風景」に
なり切れず
何も語らない
どこかで
一人はしゃいでいる
語り過ぎる風景
が過ぎて行く
昼下がり
....
彗星は神とともに落ちにけり
蜜蝋の如き翼を失ひ
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