夏が
終わる頃
聞こえて来る
最後の
飛翔のあとの
蝉の
長い命の終焉
霧のように
降りだした雨が
渚を
細かく波立たせる
見えるのは
人の去った岸辺
雨に見えない彼方の
ひかり
暗い冬の海に向かって
真っ直ぐ延びる
桟橋のさきで
潮風に晒され
逃れることも
かなわず
ただ
直立する
未来
シュレッダーに
放り込まれた
愛の秘密が
刻まれた
細長い紙に
印字される

そこにあるのに
絡みあって
取り出せない

見え隠れする
手のひらが
ワタシを
 さがしている ....
歪んだ
時空の
軸受の
軋む音を
聞きながら
夜毎
もう 使わなくなった
言葉を
燃やす。
扉が開くたび
音は
刻印される
開け放たれた
向こう側の
草いきれと
風を
振り払う
潰れた
知らない視線
それは不意に
何処からともなく
やって来た

乗せない
乗客を
ゆっくり
見送る
真新しい吊革
にぶらさがっている
視線の群れ
開かないドアを
開けるものはいない
いつも寝ている

夢の中
春の日溜まりに
聞こえる
母猫の
まるい呼び声
瞳いっぱいに
映り込む
セカイ
見えなくなるほど
すぐ傍にいるのに
いないのだ いつも

散り始めた
桜の花びらの下を
通り過ぎた時
いないはずの
梅の香りと
すれ違う
不意の挨拶の
仄かな風が吹いて
見えな ....
深々(シンシン)と
遠い闇の
押し寄せる
夕刻の
八重咲きの
鬱金香
人の気配のある
白い給水塔
鉄塔の向こうの
黄昏に刺さった
古い縫い針を
抜いてくれたひと
さっきから
重くて仕方がない
いっそのこと
ひと思いに
地面に落ちたら
どんなに楽か
濃いピンクの花びらは
重いのだ
皆から
「まあキレイ」
なんていわれても
ちっとも
嬉しく ....
橋桁の影に
打ち寄せる
川の波は
河口への旅を
果たせず
打ち寄せ
打ち上げられた
 時間と
 「もの」の終り
夕暮れの足下を
通り過ぎて行く
初めての
木枯らしが
ほんとの冬の
始まり
冷たく狂った
風に
ゆっくりと
凍える
からだの指先

私ではない
誰かのもののように
冷えて ....
雑用のような行事に
押し流されて
一年が終わる
季節
人生設計リセットの
ループから
抜け出せぬまま
辺りに
第九が流れ始める
その押し付けがましさに
気が重くなる
最終楽章が終 ....
データを
消去する
日曜の朝を
消去する
今日の日付を
消去する
空の雲の形が気に入らないので
消去する
昨日撮ったビデオから
余計な車の通過音を
消去する
ノイズを恐れて自らを ....
風のある夜更けの
犬の遠吠えを
耳したのは
いつのことだか
もう 思い出せない
木枯らしが
枯葉をサラサラ
いわせて
どこかに
連れて行く
地図から消え失せた
どこかへ
曖昧に ....
遥か
遠い雲の向こうを
焼き焦がす
流血の
夕暮れ
いつも
暮れる速さに
追い付けぬまま
置き去りにされた
また 夕暮れを待つのは
誰?

日毎繰り返す
不在の
観客のた ....
水のない
冬のプールの
コンクリートの
水色の底に
紅葉が吹き溜る
夏の間
空気のようにあった水は
そこにはない
見知らぬ三毛猫が
かさかさ
足音を残しながら
横切って行った
ただ 波の音が
聴きたくて
退(アセ)た記憶の
駅を降りた
秋の海辺の
遠くに見える人影
波音と潮風に
案山子のように
吹かれている
わたしの
束の間の領土
暗がりの奥で
をたたずんでいる
白い影が
微かにゆらめく
よく見えない
曖昧な表情(カオ)
の 巫女
の 絹ずれ
の 音のたびに
後退し始める
時空
朝のテレビ画面で
十羽ひとからげにされる
「我々一般庶民」
街頭マイクの前の
うわずった自己主張の
オジサン達
丸暗記したような
青年の模範回答
日本の天気のように
安々と扱われる
 ....
ペンキの色が
紅いのは
あなたのせいだ

昨日の流れ星が
溢れそうな
盃にゆらゆら
揺れて
大伴黒主の姿が
見え隠れする
積恋雪関扉(ツモルコヒユキネセキノト)

紅いペンキを ....
小綺麗に整頓された
博物館というのは
謎めいた怪しさがなくて
つまらない
里山のジオラマが
自然を嘘臭く見せる

小さい頃見た
博物館の陳列は
モノのそっけなさが
却って
世界を ....
古い元美容室の
丸い鏡に
そとのビルが霞んでいる
部屋の角には
埃っぽい暗がり
苦いひとの記憶

「なるべく水分を沢山摂って下さい」
と書かれた貼り紙が
なぜか
人の声のような気配 ....
中古カメラ屋の
ジャンクボックスの
古い壊れた写真機は
壊れても
そう安々とは死なない

数え切れないほど
フィルムを通した自負がある
シャッターが落ちる瞬間の
記憶が
擦り込まれ ....
カサカサ いわせながら
足裏に 季節を
感じる時
秋の音が
聞こえる
砕けた落ち葉の
紅葉の破片が
ばらばらになった譜面の
ひとフレーズのよう
こんなときは
ミケランジェリの
ド ....
押したはずの
シャッター音が
秋の葉音に
かき消されて
写真だけが残る

昨日 不意に
夜に向かって
ストロボをたくと
逃げ遅れた闇が
気まずそうに
ちょっとだけ
慌てふためく ....
かすかに聞こえる
闇の向こうの
川の音

降り始めた
雨の中を
渡る 向こう側に

もっと聞こえるはずだ
 その音

霧雨の遠くに
滲む地平と
遠退く雨の

絹のような層 ....
綺麗に裁断された
紙の断面
断ち切られた時間
断念すら出来ずに
それは終わっている
紙を裂く
切られるのではなく
引き裂かれ
解れた一本一本の繊維が
神経のように露になる
フクスケ(176)
タイトル カテゴリ Point 日付
夏の終わり自由詩016/8/19 17:21
DayLight自由詩012/11/28 20:21
桟橋自由詩212/11/22 22:00
愛の秘密自由詩112/10/17 19:51
燃やす自由詩212/10/16 21:33
自由詩012/6/4 20:35
回送車輌自由詩012/5/24 20:32
眠り猫自由詩312/4/25 21:24
distance自由詩112/4/13 16:10
鬱金香自由詩112/4/12 19:40
黄昏自由詩312/4/12 14:59
椿自由詩212/4/11 20:57
波うちぎわ自由詩110/12/26 19:52
木枯らし自由詩010/12/15 20:46
十二月自由詩110/12/14 20:10
消去自由詩010/12/4 8:42
風の音自由詩110/11/30 20:42
夕暮れ自由詩010/11/28 8:22
プールサイドの冬自由詩210/11/21 10:22
秋の海自由詩310/11/2 21:04
巫女自由詩010/10/19 10:48
市民自由詩110/10/18 18:56
ペンキの色自由詩010/10/16 19:35
科学博物館自由詩3+10/10/15 21:02
自由詩210/10/14 21:20
写真機自由詩210/10/13 20:02
秋の音自由詩1+10/10/10 9:11
写真について自由詩110/10/8 20:10
その音自由詩210/10/7 7:38
裂く自由詩009/12/23 9:34

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