府中の霊園の芝生に、僕は坐る
目の前の ✝遠藤家 の墓前に
炎と燃えるポインセチアの植木鉢と
グラスに日の射すワインを、置いて
初めて訪れた十五年前の夕暮れ
左右に生けた紅白の薔薇は
....
毎朝みる、幾人かの顔が
通り過ぎる朝の道の向こうから
杖をつき、背を丸め…近づいてくる
95歳のトメさんと、目が合う。
――あら、今週も会ったわねぇ
毎週火曜は、通院らしい。
毎週 ....
恋は昇ったり降りたりで、草臥れる。
恋は遠のいてゆくほどに、懐かしい。
太陽は、今も僕の胸に燃え盛り
{ルビ永遠=とわ}に手の届かない――幻
あの日、出逢いの風は吹き
互いの杯を交わしてから
ひとり…ふたり…銀河は渦巻いて
空白の{ルビ頁=ページ}に――僕等の明日はあらわれる
古びたティーポットの、口先から
白いゆげはしゅるるるる…
ぼくの唇からも
凍える誰かを暖める言葉が、たち昇るといい
万国旗は青い風にはたはた…揺れ
園児等が駆け回り、賑わう
秋の運動会。
染色体が人より一本多く
まだ歩かない周と、並んで坐る
パパの胸中を{ルビ過=よ}ぎる、問い。
――僕等はあわ ....
天に昇った恩師が好きだった
白のグラスワインを
向かいの空席に、置く。
あまたの想い出を巡らせ、僕は
白いゆげを昇らせる
珈琲カップを手許に、置く。
――そうして夢の対話は、始まっ ....
赤い羽根の天使はリュートを抱き
ふくやかな指を、無数の弦に滑らせる
世にも美しい音楽を探るように
誰もいない秋の浜辺に、立ち
吸いこまれそうな
青空
に手をのばす、僕の
頬を ぶおう! と
{ルビ嬲=なぶ}る――一陣の風
沖の方から
幾重もの波は打ち寄せ
波飛沫の散る、ひと時の ....
朝起きて、のびをして
飯を食い、厠に入り
玄関のドアを蹴っ飛ばし、
彼の一日は始まる。
日は昇り、やがて暮れゆく迄の間を働いて
単調なる繰り返しの、気怠さの…
口をへの字の忍耐の(時折 ....
前方の、遥かな明日へ――突き刺さる
線路の彼方に、富士は{ルビ聳=そび}えり
修善寺の源泉で
足湯に浸した
両足は
鬼の如く真っ赤に染め上がり
旅人は心に決める。
――この足で、日々を切り裂こう
娑婆の世を生きるには
時に…鬼と化さねばならぬ
が、赤い仮 ....
修善寺の蕎麦屋の座敷にて
{ルビ熱燗=あつかん}を啜り
天せいろを食した後の
油が浮いた器のつゆに
喰い千切られた、桜海老の顔
白い光の小さく宿る
黒い目玉
{ルビ茹=ゆ}で ....
酔い醒めに
冷えた徳利頬にあて
せせらぎに揺る、竹林の笹
朝の川原の岩に、腰かけ
せせらぎに耳を澄ます。
{ルビ水面=みなも}には嬉々として
乱反射する、日のひかり。
一度きりであろう人生を
この流れに…まかせようか
――旅人は岩から ....
にょきにょきと…背丈がのびる
パキラの樹は、天井にふれ
窮屈そうに
緑の背骨を曲げている
――私ハモット大キク…ノビタイ
音の無いパキラの声は、不思議なほど
対面する私に内蔵さ ....
目の前の、岐路は分かれ
右の標識も、左の標識も
〇い空白のまま、立っている。
*
私は想いを巡らせ…夜道を{ルビ漫=そぞ}ろ歩く。
立ち止まり…深夜に囁く星々に、目を凝らす。
....
実家に帰り、午睡をする。
窓外で
うらかな陽に照らされたポストが
かたっと音をたてる。
配達夫のバイクの音は遠ざかる。
そんな風に僕はいつも
待っている
昨日も、今日も、これからも
....
鎌倉の朝は、なぜか散歩がしたくなる。
低い緑の山間から
燦々と顔を出す陽をあびようと
玄関のドアを、開く。
日頃住む街よりも
澄んだ風を吸いこみ
図書館の庭に足を踏み入れ
ベンチに腰 ....
鉛筆の芯を、削る。
何処までも鋭く、削る。
(誰かを傷つけるのではなく)
{ルビ褪=あ}せた現実に、風穴を空ける為に。
CDのジャケットから取り出した
ブックレットのモノクロ写真は
だだっ広い空の下を
何処までも伸びゆくハイウェイ
目的地へとひた走る、旅の車
ハンドルを握る、目線の先
一瞬
黄色い蝶が ....
今より少々ケツの青かった頃
とあるスタジオでラジオのADだった
僕の耳に飛びこんできた
「ボヘミアン ブルー」
躍動する無数の音符等は
瞬く間に僕のハートの入口に吸いこまれ
自らの生の ....
海岸沿いを走る車は、山道に入り
坂を上る、木々の葉群の隙間に
一瞬、輝く太陽の顔は覗き
夜の列車のドアに凭れた窓から
ふいに見た、夜空に浮かぶ
ましろい盆の月は夜を照らし
――昼も ....
君の存在の只中にある
方位磁針は
すでに示している。
カルマの暗闇を越えた、この世の桃源郷を。
――first inspiration――
それは未知への世界に
わなわな震える・・ ....
人は問う「あなたの師は誰ですか?」と。
私は黙ってひとさし指を――立てる。
北風の只中を防寒靴で歩いた、僕は
あの日の旅路を手にしたペンで、筆記する
*
――記憶に蘇る、海の匂い
遠くに見える、断崖に近づくほど
潮の香りを鼻腔に…吸いこみ
断崖の ....
「禅ヒッピー」という本の中で
遥かな山並みに目を細めつつ
なだらかな麓の道を、二人は往く
――何だか最高の気分さ、ジャフィー
――日々の道と同じ空の下だよ、スミス
「比較とはおぞまし ....
二十年前、富山に嫁いだ姉の結婚披露宴で
お約束通り、親父はウェディングドレスの
裾を踏んだ。十代だった僕は、ポケットに
手を突っこんで「贈る言葉」を歌った。
最後の挨拶で新郎のお兄さんは、 ....
真夏の{ルビ陽炎=かげろう}揺れる
アスファルトの、先に
琥珀に輝く円い岩が
ひとつ、置かれている。
額の汗を拭って、歩く
旅人の姿は段々…近づき
数歩前で、立ち止まる。 ....
君は今日も、渋谷ハチ公前の
路上でギターを掻き鳴らし
スクランブル交差点を行き交う
無数の靴音の、彼方には
紫色の夕空と…ひとすじの雲があり
警察に止められ、君の路上の歌声は
3曲で終 ....
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