夫婦で、出かける準備をする
告別の朝

在りし日のお{ルビ義父=とう}さんが見ていた
テレビがふいに、点いた

夫婦は顔を見合わせる
(からだを脱いでも
 {ルビ御魂=みたま}はおられ ....
夜空から明滅して                 
ゆらゆら下りてきたUFO

白い塔に刺さったまま         
もう長い間、固まっている

その足下を京都の人々は       ....
灰色の街に
今日もじゃぶじゃぶ降りしきる
情報洪水の雨達

駅のホームに立つ人々は
小さな液晶画面
の上に
人さし指を滑らせる

ひとり…ふたり…と
人がロボット化してゆく様を
 ....
平たい皿の上に
幻の鶏が一羽
細い足で、立っている

 こけえ
 くぅおっこ
 こけえ

青い空へ吸いこまれてゆく
あの日の、さけび

先ほどまで
醤油のたれに{ルビ塗=まみ} ....
雨の日に
道の向こうから歩いてくる
幼い娘と母親は

手を繋いだまま
せーのーせっ
の声あわせ
水溜りをひょいと{ルビ跨=また}いでいった

わたしの日常も、密かな
せーのーせっ
 ....
グレープフルーツ色のグラスを、手に
今夜はこうして夢見よう
いつかは消える、この道ならば
少々頬を赤らめて

僕は知らなかった
今・この瞬間、世界の何処かで
赤子が産声をあげ ....
私の内面の鏡には
百の顔がある

まともに視れば
自らがもたないので、私は

へどろに包まれながらも
発光する太陽の真珠を
自らの{ルビ御魂=みたま}として

秘密の祭壇へ
無心 ....
五年ぶりに福島から来た
トモダチのライブを観た

本人と固い握手を交した後
人混みのロビーから外へ出て
都内でライブハウスの店主をする
トモダチのトモダチに三年ぶりに
電話して、懐かしい ....
夜の砂漠の果てに
無言の姿で立っている
ひとりの木

枝々の短冊は夜風に{ルビ煌=きら}めき
忘れていたあの歌を
旅人の胸に運ぶ

――君の夢は何?

思春期に使い古した言葉は
 ....
あなたは一体
何処から来たのでしょう?

あなたは、あの日
たった一粒の種でした

一粒の種の中には
「他の誰でもないあなた」という設計図が
小さく折り畳まれ
ぎゅっ  ....
郵便ぽすとが
陽だまりに
一本足で、立っている

今まで、どれほど人の思いを受け入れたろう
これから、どれほどの言葉を届けるだろう
今日も手紙を持つ人がすうっと闇に手を入れる
 ....
建設現場で
クレーンに取り付けられた
ドリルがゆっくり
地中深くを掘っている

地球の中心に
灼熱のマントルは
どろどろ光る

わたしという存在の
只中も、掘ってゆけば
小さなマ ....
時おり
俺は何だって
ごああ、と
唸りたくなる
池袋の土曜の夜

醤油をたらし
出汁巻卵を
箸で突っついてる  
酔い覚めの夜は
歩道橋に佇み
優しい風に身を{ルビ晒=さら}す

アスファルトの白い{ルビ梯子=はしご}から
仄明るい駅の入口へ
吸い込まれゆく
人々

アルコールが少々体内を
回 ....
湯島天神の境内に入り
石段で仰いだ空の雲間から
顔を出す
しろい輪郭のお天道様が
遥かな距離を越えて
この頬を温める

あぁ、皿回しの利口なお猿さんが
師匠に手を引かれ
ひょこひょこ ....
Youtubeの画面にいる君は、木槌を手
に、鐘を鳴らす。ネットカフェから出た地上
は、若くして逝った君の父親があの日歌った
スクランブル交差点。

ぎくしゃくしたノイズが都会の鍋から溢れて ....
こんな{ルビ襤褸=ぼろ}きれの僕の中に、びい玉がある
億光年の光を宿し
何処までも続く坂道を (発光しながら)
回転して、のぼりゆく  
二年前にこども医療センターで行われた
ダウン症をもつ書家・金澤翔子さんとお母さんが
講演する写真が、廊下に貼られていた
(写真の隅には、ダウン症児の
 息子を肩車する僕と、隣の椅子に座る妻)
 ....
My boy
大事な薬をスプーンで入れようとするのに
真一文字に口を結ぶ君は、頑固者だ

My boy
頑固に生きるってことは
自ずと苦労を背負うってことだ

頑固であるってことは
 ....
弱いのに
強いふりして、生きるから
しんみり…歩く
夜の散歩道

誰もいない公園で
のっぽの電灯に照らされて
ブランコに揺られる
独りの影

大人になった心の中にいる
小さな子供 ....
よく晴れた初夏の午後
家の庭で、ダウン症児の息子に
青い帽子を被せる

まだ{ルビ喋=しゃべ}れない5才の息子は
うわあっ!と
帽子を脱ぎ捨てる

部屋の中にはBGMの
ロックが流れ ....
生きるとは
自らに内蔵された
ギアを、入れること  




  
長い一本道で、アクセルを踏み込む
遠くから
フロントガラスに小さな太陽を映す車が
近づいて…すれ違う、瞬間
僕はぎらつく光を魂に摂取して
目的地を見据え 走る  
退職の翌日は、僕が司会の朗読会
――三十年前の今日、事故にあいました
高次脳機能い障がいの詩友は新妻の弾く
ピアノを背に吠える ぱんくすぴりっつ!  
古巣の職場は花壇となり、これから
日々の仲間とお年寄りの間に
花々は開いてゆくだろう
明日から僕は、新たな日々に入ってゆく  




  
職場で最後のあいさつをした後
ひとり入った蕎麦屋にて、熱燗を啜りつつ
様々な天気であった…十七年を味わう
送別の花束を、傍らに置いて  
帰りの時間、お年寄りの皆さんの前に立ち
マイクを持った瞬間、言葉は詰まり
震える声で、新たな日々を誓う
一人一人の手を握る…熱い涙のあふれるまま 
送別会で酔っ払い所長の隣りに、腰を下ろす
――俺は昔上司に嫌われ、必ず見返す!って
  決意して、ここまで歩いて来たんだよ
そんな所長の男気を初めて知った、退職前夜  
退職前、最後の休日は
五十四年ぶりに十一月の雪の日で
雪化粧した紅葉の下を潜りつつ
「真生会館」への道を往く  
デイサービスの帰りの時間に、マイクを持ち
「あと数日で辞めます」と告白する
あるお爺ちゃんは天井仰いで…目を瞑り
あるお婆ちゃんは「寂しいよ」と立ちあがり  
服部 剛(2142)
タイトル カテゴリ Point 日付
いぶき―旅立った義父に捧ぐ―自由詩117/7/25 0:54
京都タワー自由詩217/7/25 0:26
大雨警報自由詩317/7/5 18:55
鶏ノ夜自由詩217/7/5 18:33
かけ声自由詩117/6/30 20:18
月明かり 自由詩117/6/30 20:07
ルオーの絵自由詩117/6/30 19:59
流れ自由詩017/6/27 17:38
木ノ声自由詩117/6/27 17:14
花の名前自由詩917/6/18 23:59
赤いぽすと自由詩417/6/18 23:56
わたしのなかに自由詩217/6/18 23:53
酒場にて自由詩117/6/10 23:55
赤い川自由詩417/6/10 23:51
合格祈願自由詩317/6/9 19:51
YとHに捧ぐ――二〇一七年・渋谷にて――自由詩117/6/9 18:14
ひかりの玉自由詩117/6/9 17:36
息子の見舞い自由詩117/6/2 23:01
一匙の薬自由詩117/6/1 23:59
夜のブランコ自由詩217/6/1 23:55
息子の叫び自由詩317/5/29 17:17
ギアを握る自由詩117/5/29 17:14
太陽光自由詩217/5/29 17:08
十一月二十七日(日) 午後自由詩117/5/25 0:00
十一月二十六日(土) 深夜自由詩017/5/24 23:56
十一月二十六日(土) 夜自由詩017/5/24 23:49
十一月二十六日(土) 夕自由詩217/2/28 14:47
十一月二十五日(金) 夜自由詩317/2/28 14:42
十一月二十四日(木) 午後自由詩017/2/22 0:07
十一月二十三日(水) 夕自由詩117/2/22 0:02

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