高い壁をかじる
音だけの生きもの
雨に沿う指
つまびく素顔
かがやく花
かがやく花
光さみしい午後の足跡
雨のまぶしさに左目を閉じる
右目を泳ぐ一人称の影 ....
壁に描かれた
巨きな逆さまの音符が
錆びた扉を指している
軋む音のなか やがてゆるりと
道しかない道が現れてくる
うすくけむる明るい夜に
けだものは光を聴いている
ひ ....
わたしは窓から身をのりだして
身投げのような夕陽を見ていた
消える 消える と小さな声が
両手をあげて泣き顔で
通り過ぎる祭を追った
わたしは高すぎて
わたし ....
頬から頬へ
まなじりからまなじりへ
打ち寄せる震えを
降りおりる応えを
音は見ていた
けして くちびるには訪れないものを
音は見ていた
ひとり 見ていた
光したたる場所に立ち
足元にまとわりつく魚を見ている
緑が照らす灰の息
耳のすぐそばにいる雨雲
肩に沿って
光はこぼれ
水に落ちて
声に変わる
たどりつけ
たどりつく ....
誰もいない街を囲み
小さな白い花が咲き
低く宙に浮かんでいる
花粉と麟粉が
片目の奥に混じりあい
列を去ったものたちを見せる
薄く薄く固まった血が
蒼の ....
この世界のどこかに
わたしにならなかったわたしがいて
やはり ひとりで歩いているなら
おそらく わたしは
声をかけることができないので
せめて すぐ前を歩いてゆく
少しで ....
風のなか
ひらかれる本
ひらかれつづけ
とけてゆく文字
とけてゆく頁
「死にかけた鳥を
藪の根元に置いた
雨を避けられるよう
鴉を避けられるよう
湿った土の上に置い ....
星の夜の木々
根を隠す原の音
静かに横たわるけだもの
原のむこうは蒼
蒼のむこうは原
花びらが
蝶を知らずに
水際に降りてくる
葉の星へ
穂の ....
高みへ 高みへ
翼をひろげる鳥の群れに
空はふちどられたままでいる
音が音をひそめながら
緑に曇る午後を見ている
離れているのに離れずに
ともに震えを待つ姿
見 ....
曲がり角に沿う壁を
鳥の影がすぎてゆく
風のない午後
一羽の午後
少ない雨が来ては去り
灰は薄く街にひろがる
置き去りの光
置き去りの火
黄緑 ....
午後三時の道の上
薄目を開けて寝そべっている
おまえの見る夢は多すぎて
電車がすぎても目覚めない
食い散らかして 蹴飛ばされ
胸も腹も治らない
同じ道 ....
おだやかなのに
おだやかでない
雲の陽の今日
この翳りの日
聞こえくる歌
不思議な歌
矢をつがえることなく
矢を放ち
届くことなく
消えゆく軌跡
向かう先なく
散 ....
人のなかに 波のなかに
言葉を放ち
よろこびもしあわせも捨てようとしている
見知らぬ雨 見知らぬ路
見知らぬ緑
石にはね返る言葉を見つめていた
誰もが居るのに 誰も見えない
....
ひとりの子が
ひとつの楽器の生まれる様を見ている
作るものも
奏でるものも去ったあとで
子は楽器に愛しげに触れる
おずおずと うずくように
楽器は
花になる
新しい言 ....
あちこちに月がひそむ夜
銀を一粒ずつ踏みしめて
雲をあおぎ歩みゆくひと
月の手は風
月の火は雨
ただなごむ
死のように
いのるひと いるりひと
いるり ....
音の無い空
音の無い花
近づきながら 離れながら
混じることなく
川の上に重なる川
川を映す川をゆく
花に触れ
鎮む流れ
陽は分かれ
影は過ぎる
花は音 ....
雨あがりの
見えない水に仕切られた通りを
たくさんの人
静かな人
離れることを疑わずに
歩いてゆく
ずっとひとりで吠えるとき
震えがどこまでものびてゆくとき ....
幻の終わりと塩の光を抱き
鳥はひとり 海にたたずむ
波に重なり ゆらめく陰
待つもののない午後の陰
船を終えた船の列が
小さな声に照らされている
空をゆく声 落ちる ....
春のある日
緑の窓に
映るように出会う
ふたつの音楽
応え以上の応えを浴びて
昨日は突然消え去って
今日と明日は行き来する
花の手をとり まわる声
声の手を ....
この先
いきどまりです
木陰の看板を
すぎてゆく雲
誰かの何かが持ち去られ
小さなものひとつ分だけ足りない世界の
午後のガラスの路を歩む
春は銀 ....
手に触れる花からはじまる
円筒形の歴史があり
空と目の間でまわっている
音が音を奏でている
こすれあう音
すれちがう音
変わりつづけるかたちの夜
とどめおけ ....
鳥が歩いている
霧のなかを飛べずに
道から道へ歩いてゆく
鳥は車輪に話しかける
回転は無言でうなづいては駆けてゆく
手持ち無沙汰の傘の群れ
短く晴れた午後の陽の群 ....
光のなかで光を引きずる
あちこち折れた羽のように
増えては
増えては 軽くなる
はばたきに似た歩みの音
灰のにおい
羽のにおい
いつのまにかひとりの道
鈴の音
陽 ....
自らを喰み赤子になる
自らを喰み赤子になる
終わりなく届かぬひとつの舞
くりかえすことなくくりかえす
くりかえすことなくくりかえす
ずっとそこにあるものだから
じっ ....
何もない手に
白が降りて
名前を呼んだ
もくれんよ
もくれんよ
微笑む間もなく
雨は来て
空を伝い
午後を撒いた
灰の鱗
一人歩きの傘
午後の陽の行 ....
燃え上がる舌を晒し
触れるものすべてに火をつけてゆく
光の鎖骨に 首筋に
街と街を結ぶ橋の手足に
遠去かる星
斜めに傾く黒の山から
突き出された光の棘が
天の耳へと ....
異なる季節の雪に埋もれて
じっと静かに咲いている花
かたちは声を待っている
すがたは声を知っている
道化のまわりに
積み重なる吸殻
泣けないもの
くすぶるもの
二から三へと流れる指先
後ろ手に札を隠し持つとき
風は冷たい
はためくテントの継ぎめから来る
....
灯が灯をまわる ゆうべの目
灯が灯を染める ゆうべの手
うなじにしっとり汗をかき
顔を隠して駆けてゆく子ら
隠した顔で笑み交わす子ら
見える客人 見えない客人
....
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