誰もいない日
誰もいない目
側溝の枝を鳴らし
むこうがわから来た風が
むこうがわへと帰ってゆく
日曜は泳ぎ
日曜は泳ぎ
閉じた店の前を泳ぎ
色あ ....
微笑みの半分が翼で
空の半分が月で
呼びあって 呼びあって
微笑んでいる
夜に咲く花
触れられたことのない花
もっと小さなうたを歌う
もっとしっかり小さく歌う
世界 ....
夜は速い
夜は速い
これから向かう世界のすべてが
わずかに低く傾いているかのように
夜は速い
夜は速い
背に積み重なる力のように
夜は速い
夜は速い
誰かに遠去けられているか ....
月のまわりに
月と同じ輪があり
水平線に沈みながら回っている
輪は海にひろがり
波は光を打ち寄せる
屋根が 鳥が
騒がしく雨を知る
ずっと空を見つめていた目が ....
強い風のなかを
持ち上げるように
持ち上げられるように
地面 空気 歩むもの
地面 空気 馳せるもの
ゆっくりと肩いからせる動きたち
風にぎる指へと伝わってゆく
....
八月の背中を歩いていると
目の前で空気が寝返りをうち
その色にその場に立ちすくむ
秋のそばの道を歩いていると
水のようで水でないものが
いくつもむこうからやって ....
枝から枝へ
したたる雨のむこうに
遠く島が浮かんでいる
曇が海をすぎてゆく
光が枝を照らしている
雨はひと粒ずつ消えてゆく
ゆっくりと目覚めるひとを見つめること ....
ぼんやりとした広い場所のあちこちに
色 数 かたちを変えながら
光が点滅しつづけていて
指先にしか届かないくらいの
かすかな熱を放っている
捕らえようとひらかれた
片 ....
指でかきあつめた空を
誰かが道ばたで食べている
遠い指の跡を見上げながら
傾いだ光ばかりが降り立つ
目の前にのびる一本道は
どこにもつながっていないように見える
....
焦土をさまよう鳥が
音に出会い そこに住んだ
双つの枯れ木が立っていた
緑は墓から来て
どこまでも薄く
地平に向かった
生まれるものはなく
来るものだけ ....
あばら骨を浮き立たせたまま
空はどこへ埋まろうとするのか
墓地の土は硬すぎるのに
操車場の跡は狭すぎるのに
まわりながら燃えあがるかたちを
位置も時間も持たないものが
....
いつもいつも同じ場所で
同じ音とすれちがう
同じ夜の
同じ時間に
小さく横に弾む音が
沈む星を捕らえては
右と左をくりかえす
光の歩幅をくりかえす
ひろ ....
朝は暗く
雨はまぶしく
片目をつむる
痛みのかたち
指でたしかめ
頭のかたち
指でなぞる
何を恐れているのか
頭は
握り拳のままでいる
....
ゆっくりと明るい雲がせり上がり
それ以外の雲は皆うつぶせになる
降り止んだ雨は灰色
降り止まぬ雨は金色
とどまらぬ色とどまらず
とどまらぬ音ふりそそぐ
小さいものが
....
鴉のはばたきに覆われて
夜の鐘は少しだけ揺れる
刃の音 鋼の音
夏とともに終わる音
音はただ音としてはじまり
やがて静かに変わってゆく
前転する光と
前転する黒羽が ....
荒れ野が片方の目に鳴り響き
もう片方の目に指揮を促している
痛みの無い緑の涙を流す
ひとりの観客のために奏でられる波
波を聴き終えたひとりのものが
誰に向かってかさえ ....
さようなら波
めぐりくる波
朝の原と昼の原
境いめの道に
鳴りわたる鈴
かき傷だらけの明るい日
光の化粧をした光
両手を緑に染めながら
腕ひらく子の歩む道
....
白い杭と鉄条網が
鉄の獣を取り囲んでいる
天気雨がなまぬるく
獣の背の光を流す
欠けた虹がすべるように
ひとつふたつと遠去かる
溶けるように昇る空
指の跡のつ ....
雨が小さく入ってきては
分かれた姿をかがやかせている
窓に積もる風がくずれ
部屋の光は火の輪に変わる
土の下をゆく水の音
暗く残る灯火のいくつか
高架橋は惑いに惑い
....
街の隙間を流れる音が
曇り空の信号をつややかにする
22時すぎを唱う点滅
夜の湿り気にまわりひろがり
車輪の音を手招いている
祭の粒が匂っては消える
草 灯 ....
真夜中の海を着て
子はひとり
見えない冬を聴いている
袖を握る手をひらき
ゆるりと腕を南へひらく
いつからか子は歌えなくなっていて
窓を流れる午後のむこうを
雨と雨の ....
すがたがすがたを
かたちがかたちを追いかける
線だけがゆうるりと
異なる時間に重なってゆく
光と無音がつくるまなざし
視線の端で 笑みの隅で
あなたはあなたを ....
見えない光のなか
両腕をひらくと
波打ち際に
捧げものが打ち寄せる
まわりつづける羽の窓
羽のかたちに燃える窓
光を赦す声を背に
風に濡れて立っている
捧げものを抱 ....
旅立ちの道は心地よく
熱を残していたのに
いま太陽の下の冷たさは
独りの歩みを空へとつなぐのか
願いに満ちた足跡が
雨のなか消えることなくつづき
標のようにまたたいて
....
ある日 私が見捨てた鳥が
私の目のなかに棲みついて
朝は右目 午後は左目と忙しい
ある夜 視線が重なったとき
鳥が見るもの
私が見るもの
憎しみにそんなに違いは無く ....
小さな部屋から
見上げた夜空に
架空の乗り物
架空の星座
笑みのように燃えては飛び交う
カーニバル
カーニバル コンテニュー
小さないのち
小さなかたち
散り急ぐ ....
鳥と世界が
左目を語ってやまない
他のものが皆
目を閉じている夜も
砂浜では
さまざまな色をした風が
透明な凧をあげている
砂の羽が
ひらいては散る
雲が波に近づ ....
雨が近づき
誰もいない
贈り物を捨てた
霧に立つ
赤と白の脚
ひとつの弦を聴いた
動かない虫
窓ごしの雨
深緑の声
夜は去り
水は残り ....
雲の傷を見つめ
花の傷を見つめ
夜の風に会う
川と光
野をさする指
草に埋もれた門のまわりを
月の光が
何度も何度も踊り巡り
いつまでもいつまでもやめないので
誰 ....
ある建物のロビーに座っていると
少し離れた場所に並んでいるコインロッカーの鍵のうち
ひとつだけが震えていて
「どこにもいけない」
と聞こえた
「そうだな」
と言うと
....
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