窓のふくらみの目がひらき
風をゆっくりと見わたしてゆく
どこからか来る黄金の音
越えてきた土の混じる音
目には青空と野が映り
どちらも南にかしいでいる
煙る碧と子らの手 ....
野はかがやき まるくなり
つつむかたちと
つつまれるかたち
同心円のやわらかさ
金色に金色に目をふせる
まるいかたち
ねむるかたち
金色に金色に放たれる
これは古 ....
やわらかな魂のいる
逆さの方向から
血まみれの魂が来て
もういいんだ と言った
わたしは着ていた服を脱いで
一枚一枚かけていった
わたしは朝で
わたしは海 ....
なぜ目覚めたのか
ずっと考えていた
ふたつの色の
雨のはじまりだった
ふいに起こる物音が
ふいの朝を説いていた
音の主をたしかめる前に
それらは高く飛び去っていた
....
雨の日 音は海辺を描いた
さまざまな色を塗り重ねた
色はどれも少なかった
月や花からわけてもらった
銀と灰
黒と金
もっといろいろ描けたのに
ずっと待ちくたびれていた ....
ひとつが
どこまでもひとつに感じられ
ふたつが
どこまでも数え切れなく感じられる
街が街を過ぎるような
水のような音の時間を
子は歩む
子は沈む
千の手の波
....
9に
縦の線を引いたら
猫になった
こちらを見た
水のかたち
火のかたち
草のかたち
さざめく背
冷たい朝の送信
少し遅れる返信
遠くの遠くの声
....
窓辺にいる子は
みんなふるえて
綺麗という字を
こわがっていた
だって
かまきりみたいだから
夕べのにおい
外灯のにおい
壁の裏側に眠る怪物
屋根の向こうにそびえる火を追い
刈り込まれた生け垣の葉をとばす
一筆書きの街から街へ
人のような虹が駆けてゆく
うろ ....
すうすうと水は目に入る
水には空に向かう手が映る
曇は過ぎてゆく
地には駆けるものがある
どこにも行けない火が
どこにも行けないことを知りながら
十月の光にはばたいてい ....
何のために拓かれたのか
忘れ去られ 荒れ果てた地に
静かに触れるふたつの指
空き地から空き地へ
ざわめきを越え
かがやく差異の曇がひろがる
空にも地にも
....
わたしは川を下り
骨だけの草
骨だけの景を組み立てる
雲を集める
息を集める
ひらひらとする
羽のつけ根にひろがる国
赤く透きとおるまなざしの国
からだのすべてに生 ....
ゆるりところがる指のからまり
ほぐれるたびに空は変わる
ふるえからゆらぎへ
青から碧へ
変わりつづける遠くの道を
冬はたしかに歩いている
銀に洗われる世界に立ち
流れ ....
日暮れの蒼のわたしへと
空も地も金を置きに来て
今日も緑に埋められていて
流れ込む色のわたしで居る
ひとり歩いて すれちがう
醜いものも 悲しいものも
みんなみんなわた ....
雨を聴く背の光から
こぼれ落ちる羽のかたまり
ほどけてはほどけては飛びたつ音
窓をどこかへ連れてゆく
ひとつがほぐれ
ふたつに分かれ
五つの姿に消えてゆく
羽 ....
首すじの羽
雨をのぼり
音に出会う
浅い歩み
どこかが浮いて
傾く歩み
居ること 居ないこと
そのくりかえしに
降りつづける色
白い槍 白 ....
緑の角
緑の棘
まわりつづける輪のような
雨の花
光の花
髪を 胸を 流れ落ちる
痛みを知らない白の蝶と蛾
痛みの青をすぎてゆく
傷の間を流れる花が
見えない羽に ....
昨日が昨日ではなくなって
明日が明日ではなくなって
今日のなかに溶け込んでゆく
いつかまた会えたら
看護婦がひとり
エレベーターのなかで
白い布の下にむかってささや ....
雨を壊して
ななめの空
抄いとる角度
つばさてのひら
蜘蛛の巣 しずく
あおみどり
浮き沈む空
つばさてのひら
ふたつはひとつ
ひとつはふ ....
むしっても
むしっても
手のひらから花が現われる
涙の音を聴く
破られ
重ねられた紙が
光に波打つ音を聴く
灰青と灰緑に冬をひろげて
いとなみの空ははじまった
....
白猫の耳
草の下の水晶
白猫の耳
切っても切ってもひとふさだけ
長くのびる髪の毛を
目にかざし 陽にかざし
わずかに異なる小さなふるえ小さなふたえそのままで
ひ ....
踏みしめるたび
声の断片が舞い上がる
まだ若い木々の丘
蘭が緑を喰む丘で
命は光を喰んでいる
息は涙を喰んでいる
光はゆっくりと坂を下り
上りゆく雲とすれちがう
丘 ....
走り出せばついてくる
どこか高みにいるものが
消えかけた標を撫でている
棄てられた路を撫でている
成層圏が
一匹の猫の動きを真似ている
泣き出しそうな笑顔を浮かべ
....
崩れ落ちた家のなかに
階段だけが残っていて
空にささやく
みちびきよ
みちびきよ
夜の路の先の先に
地を照らせない街灯があり
空にささやく
みちびきよ
みちび ....
階段を下りてくる人たちの
足から上が見えない瞳
春に消えた白猫の
老いた背中を野に見る瞳
からになった犬小屋で
じっと何かを待っている音
とめどない霧と霧雨のなか ....
かすかに機械のふるえのあなた
崖に立つ雲のあなた
氷の下を流れるあなた
誰にも答えることのできないあなた
浮くように歩くあなた
伏せる枝 眠る葉のように
こち ....
光のなかのかたち
花の前の小さな声
小さな姿
ほどけてゆく線のあつまり
光を知るもののまわりには
小さな光の歪みがいて
小さな手を差しのべている
手に手を ....
とても静かだった
自分の前後に自分がいて
とても静かだった
口笛で消えた
手のひらは離れた
離れながら鳴った
いろいろ混じる無色の
音未満だった
声は ....
わたしは何かを見に来ていた
一匹の蝿
一羽の鳥
空は空に
海は海にひとつずつあり
遠くも近くも聞こえずに
陸へ陸へと近づいていた
ひとつがひとつのまわりをまわり
....
影と壁と風の生きものを
藪のなかから鳥が見ていた
朝にだけ現れる生きものの
羽音のような目覚めを見ていた
生きもののからだに光があたると
たくさんの傷が道にひらいた
鳥 ....
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