閉じた目のような傷口が
ある日ひらいて
目と目が合った
そしてすぐに
閉じてしまった
まなじりの端がひゅっと光り
猫と一緒に駆けていった
夜の車道を駆けていった
....
ひたいに浮かぶ舟の上から
手をのばし 指に触れていき
水紋は
遠くへ遠くへひろがってゆく
とても大きな朝があり
どこかへ低く消えてゆく
建物の陰に残る光
開け放たれ ....
ふわりと動くちからがある
雪にちらばる削られた木がある
布か機械かわからぬ四角を
抱きしめて眠るけものがいる
ふくろうの後ろ姿をした人が
朝の光に手をふっている
ふ ....
木々のはざまの灯をくぐり
遠い雨の声は届いて
うねりは低く道にほどけて
夜から夜へと紋をひろげる
冷たい翠が空につらなり
生きものはいないと告げている
灰のなかの白 ....
足もとの道は
ひとつの石に揺れ動き
前方へ前方へと傾いて
歩むものを運びつづける
土の無い道をすぎ
灯の無い道をすぎ
何も無い道をすぎても
指が生まれ
点が ....
細かな雪が
隙間なく降りそそいでいる
長く低い壁の向こうに
巨きな一本の老木があり
黒と銀にたたずんでいる
動きも音も雪のもので
老木は自身の他は持たぬまま
ただ ....
木陰に隠れている子が
まぶしげに顔をのぞかせて
空にも地にも鳴りわたる雲
青のこだま
緑のこだまを見つめている
深緑は灰空に深く緑で
遠い雲を映しだしては
雨のは ....
動かない音が迫るときはいつも
道の肋骨を歩いているときだ
誰にも気づかれぬまま
逝った道の
無色の夜の分身が
道の骸に降り立ちて
小さな手足をのばしては
照り返 ....
遠くにひとつの食卓があり
ひとつの蝋燭が灯っている
両わきを
たくさんの人々が過ぎてゆく
火は光を燃やし
蝋を燃やし
自身を燃やす
空は序章の終わりのように
ど ....
枝の上の雪の顔
溶けては積もり
同じ顔になり
じっと空を見つめている
生まれる雪を見つめている
屋根の雪がまだらに落ち
鴉はそれに合わせて唱う
屋根から屋根へ
....
空からたくさんの手紙をわたされ
緑のなかへ入り
迷ううちに手紙を失くし
戻ってきたときにはいつも
お礼の手紙が積まれている
迷うために迷うのではなく
たしかにどこかへ ....
曇空が緑にとどいて
海を見せてゆく
緑は
しあわせになる
船が船を呼んでいる
砂浜と鉄路のむこうに
声にかがやく枯れ野があり
波をこがねに照らしている
....
何度も何度も触れてくるのに
けして苦しくなることのない
数え切れぬ手 ふたつの手
近づき 重なり
離れゆく手
離れ 離れて
響きわたる手
さくさくと向かい風
にじむ ....
蒼い霧のなかの笑み
塩の光がつくる馬
曇を歪ませ 熱は駆け抜け
止まらない空を追いかける
足跡のような湖が
山の間につづいている
冬は地平の桃色の奥
静かに静 ....
腕に映る
影が熱い
揺れ動く羽が
胸をのぼる
淡く濃いもの
避けられぬもの
肩から飛び立つ
こころ失きもの
冬の小さな虫たちが
茶碗のあたたかさ ....
みんな白や金を胸に受けとめ
白や金の朝に溶けそうだった
目を閉じた笑み
草のなかの笑み
肩から上を
地の陽に向けて
誰かが果実を抱いているとき
どちらが果実かわか ....
いつか見た後ろ姿
壊れた橋
すぎる川
流れのそばのねじれの幹
降り積もる午後の色
午後の音
ちぎれた紙に書きしるす道
ねむりにつく子が
二本の木を夢みる
通り ....
金にあふれる雲間には
鳥も魚も子らもいて
紅と灰の問いかけに
青と銀の応えを返す
にぎやかで静かな暗がりの廻転
こぼれつづけるうた受けとめるのは
やわらかなやわらかな ....
光が流れ
かたちを描く
笑みと涙の上にある
やわらかなものに隠れたかたち
不思議と不機嫌に隠れたかたち
見えない花束
ふわりと触れ
すべてやわらかなものたち ....
営みや虹や偽りが
ひとつのつららになってゆく
あたたかく ゆがむ 手のひら つらら
したたる つめたく かがやく つらら
見つめるひとの目のなかの
自分自身を光に映し ....
目を閉じて
目を閉じる前に見た雪が
空へと戻るつづきを見る
白く小さな音を見る
雲の鳥がほどけて落ちて
土の上の鳥になるとき
すれちがう雪の言葉には
ほどける前 ....
唇紋のような首飾りをして
一筆書きの花束を持ち
彼女はひとりテーブルにいた
誰もが通り過ぎてゆくうちに
花束は水彩になったので
髪の毛のなかの夜のため
彼女は少し首を ....
?
軋む音
水の音
小さな舌の音が来て
流れるように傾きを変え
流れるように消えてゆく
指のひとつひとつに降り来る
泣きそうな笑みの光がある
触れる間もなく消え ....
白につづく銀と鈍
黄につづく金と土
線は繭にくるまれていて
まるくなり まるくなり
連なりのなか震えている
海と川の鳥たちが
街の橋を
曇の朝を越えてゆく
ふたつの ....
問い直せない問いばかり
白い段差に降り積もる
足もとにくずれては舞い上がり
白い段差に降り積もる
くずれるものらは道になり
道の下へと波打ってゆく
吹雪のなかを
....
車に轢かれつづけた傘が
側溝の泥のなかで鳥になり
やせた鉄の羽をひらくとき
午後の空はもう一度泣き
街をゆく人々の手を濡らす
目を閉じてもひらいても
夜に重なり現われる
光りかがやく胸のかたち
蒼のなかのからくりたち
高らかな鉛の奥から指さし
水面の緑と並んで馳せる
星と同じ色の曇
星と同じ ....
手はくりかえし空を混ぜた
遠くなり 近くなり
ひとつの重なりにはばたいた
触れる色 触れる音
傷のような軌跡に満ちた
溶けては響きと光になった
水と水をつないでいた
....
ふくらみを抱いたふくらみの横で
かがやきの子はじっとしていた
青しか見えない青の下
息のような明るさの下
午後のふりをした午後のあつまり
誰が造ったのか忘れ去られた
....
そっといじけたような光でいる
まるくまるくなでられたいのに
そっぽをむいて目を閉じて
大きな花の実を食べている
ずっとむずがゆく思っている
ときどき次の次がほしくなる ....
48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78
0.25sec.