春が来ると
君が心臓に飼っている星座が
かぼそい声ですすり泣く
それを夜ごと聞きながら
どうすることもできない
ただ ほら
ルビー色のチューリップが咲いたよと
君の記憶の窓のむこうの
....
白銀の沙漠を
虹色の蝶が飛んでゆく
ひとひらの火が
春の空虚を舞う
それは魚座の一番奥の扉から
あらわれたもの
ほほえんですぎてゆくかすかなもの
霧のなかで河を渡るひとよ
その美しい疲れに
解き放たれた花びらが
....
気配を交わす
凪いだ水面に立ちこめる霧のような
気配を交わす
かたちあるものは
言葉にしたものは
どんなにいとおしくても
見つめつづければ
ゲ
シュ
タ
ル
ト
....
無感覚の壁がある
その壁をとおれない感覚が
たえず壁際に降りつもる
無感覚の壁は
何を守っているのだろう
世界から自分を
自分から世界を
あるいは
自分から自分を
君の声がき ....
光が ふるえている
小さくかすかな光が ふるえている
君の中の
青く昏い場所
小さくかすかな光は
自らの源を知らず
また何を照らすのか知らず
小さくかすかなまま ふるえている
....
銀の森へ行こう
君の果てと僕の果てが
かさなりあうところにある
銀の森へ行こう
銀の森へ行こう
そこには透明な木霊たちが棲む
たぶん 君も僕も
歌うことができなかった歌たちの木霊
....
何もない
仄昏さだけが立ちこめている
空たちがおとずれてくる
幾枚もおとずれてくる
それぞれの世界を覆うのに
疲れてしまった空たちだ
日や月や星を宿し
雲を抱き雨や雪を降らせることに ....
此処は静かだ
これまでに感じた静けさを
寄せ集めたような静けさだ
此処には
君とだから来られた
そして他には誰も居ない
さえざえと澄みわたる処
静かな処
けれど知っている
こ ....
{引用=*四行連詩作法(木島始氏による)
1.先行四行詩の第三行目の語か句をとり、その同義語(同義句)か、あるいは反義語(反義句)を自作四行詩の第三行目に入れること。
2.先行四行詩の第四行目の語 ....
意識の表面に 皮膜のように貼りついた
夢を剥がす 淡哀しく雪が降る ログイン
ログアウト 扉の向こうに 景色をしまい込んだまま
日々は眠る ログイン ログアウト 小さな痛みが
星のように瞬く ....
バビロンまでは何マイル
ろうそくを灯して
行って帰ってこられるという
バビロンまでは何マイル
だがろうそくじゃない
禁断の火を灯せば
バビロンまでは瞬く間
行って帰ってこられ ....
多分 午睡の夢に
君がくれたセルロイドのホーリーカードが
舞い込んだんだ
だからほら
空は薄青いセルロイド
雲は白いセルロイド
どちらも淡く虹色を帯びて
道の両側に咲く
ピンク ....
長い夢を見ていたようだ
白い陽が
ハイウェイの彼方へ落ちてゆく
言葉がひとつ ふたつ
淡く発されては消えてゆく
別離の色彩が
こんなにも静かでやさしいことに
少しとまどいながら
....
九月が 群れをなして飛び去ってゆく
胸には 乾いた音階
湖畔を歩きながら
あのひとと約束した
――次に会うのは オールトの雲あたりで
やわらかな忘却が
夢のふちで微笑んでいる
....
其処は中庭
周囲がすっかり閉ざされて
何処から入ればいいのかわからない中庭
其処で
プロローグと
エピローグが
手をとりあってくるくると回っている
モノローグと
ダイアローグが
....
晩夏の
午睡の
淡い緑の濁りの中を
海月が漂う
一匹 二匹
三匹 四匹……
海月たちは
優婉に
漂っている
半透明のからだを
ときおり
仄かに虹色に光らせて
一匹 二匹 ....
清い流れに沿い
{ルビ鶺鴒=せきれい}が閃くように飛んで
揺れるねむの花
ねむの花はやさしい花 と
誰かが云った
小さな手が生み出す
鍵盤の響きはたどたどしくても
その無邪気さで ....
ふたたび
夏への自由が
窓辺で翼をひろげはじめた
欲しいのは何
疾走感
浮遊感
誘われ
委ねゆこう
痛みの暗い罅を
抱いたままでも
夏への自由が
窓辺で白 ....
部屋の片隅に
壊れてしまった時がいくつか
転がっている
それらは この夜に
透明な襞を寄せてゆく
やがて その襞は
包んでゆく
君の記憶を あるいは予感を
あるいは 記憶と予感 ....
微睡む窓から
静かな私が飛びたつ
静かさに沿うかぎり
どこまでも遠くまで飛んでゆける
さえずりや
せせらぎや
さざめきや
ざわめきや
を 内包しつつも
静かさは静かさのままで
....
幾重もの黄昏が
共鳴する中を歩いている
自分の黄昏
知っている誰かの黄昏
あるいは知らない誰かの黄昏
数知れぬ意識の黄昏
黄昏てゆくのは今日という日
あるいはなんらかの時世
あるい ....
踊れ
踊れ
誰も皆{ルビ仮面=マスク}をつけて
踊れ
踊れ
とめどなく流体化する世界の中で
踊れ
踊れ
どのリズムで
どのメロディーで
それは好きに選べばいい
踊れ
....
月が薫っている
星たちも薫っている
今夜は月と星たちだけでなく
とりどりの薔薇窓が
大きいのや小さいのや
しずかに廻転しながら
いくつも空に浮かんでいるよ
この夜空のどこかで
....
詩を書くと
詩のなかに彼方が生まれる
その彼方について詩を書くと
そのまた彼方が生まれる
身体は此処にとどまったままで
幾重もの彼方の谺を聞く
其処で揺れているのは
硝子細工のチューリップ
君のだいじなチューリップ
どんな色の風が吹いても
春という季節のために
其処にただ咲いている
いつか君の心臓が
やわらかな福音を脈うつ
そ ....
外へ 外へと
言葉が拡散してゆくとき
内へ 内へと
深く問うものがある
あの日の歌が回遊してくる
おなじ言葉に
あらたな意味を帯びて
今はただ
あらゆる方向を指し示す
矢印た ....
浅い春が
私の中に居る
いつからかずっと居る
浅い春は
爛漫の春になることなく
淡い衣のままで
ひんやりとした肌のままで
佇んでいる
(そのはじまりを
浅い と形容されるの ....
月光螺鈿の庭で会おう
このかなしみは
悲しみでも
哀しみでもなく
ただ透きとおるばかりだから
ふたしかさの中でしか
結べない約束を
たぐりよせるほかに術はないから
月光螺鈿 ....
{ルビ朧=おぼろ}の水が昏い季節を流れている
私は無邪気な罪の眠っている
揺籃をそっと揺すっている
無邪気な罪は
眠りながら微笑んでいる
おそらくは
甘やかな赦しの夢でもみているのだろ ....
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