父は、事業が行き詰まり大阪へ単身赴任を余儀なくされた。平成九年深夜、胸に激痛を感じた父は、携帯から救急車を呼び診断の結果、胆石の手術のため済生会病院に入院。しかし、短時間で終わるはずの手術が長時間に ....
夥しい数の言葉が
壁一面に記されて
其処だけ羅列標本
恋愛感情を剥ぎ取って
継ぎ接ぎの怪物が孵化
そんな夜半で御座った
赤い芙蓉が広がり
....
海は想う
「わたしを包み込むこの方は誰?
凪いだわたしを優しく撫で
荒れ狂っても受け止めてくれるこの方は
空は想う
「ちょいと撫でりゃこの通り
吐息一つで身をよじりやがる ....
日々の暮らしの中で
言葉の海を泳ぐようになった
なにが良いのか
悪いのかわからぬまま
てきとうに
真剣に詩を紡いでいる
私という一人の男が
悩んだり
叫んだりして
右往左往し ....
穏やかに沈んでゆく
貝殻の奥で
一枚の花弁のひとひら
(花占いを信じている女の子)
無差別に積み上げられている時間
嫋やかに蕩けている
石膏の奥で
一粒の星屑のひとかけ
(星占いを ....
盂蘭盆会
暮れてゆきそうでゆかない
夏の空に
うすももいろに
染まった雲がうかぶ
世界はこんなにも美しかったのですね
なんども見ているはずの景色なのに
まるで初めて見たように思うの ....
細い山道を車でずっと行ったところに
美しいたたずまいの
お店はあった
自家栽培の
オーガニック素材を使った
家庭料理を食べさせるという
その界隈で作られている
陶芸作品 ....
{引用=*名を呼ぶ}
名を呼ぶ
ここにいないあなたの
井戸へ放った小石のように
真中深く 微かに響き
瞑っても
抱き寄せることはできず
こみ上げる揺らめきの
糖衣はすぐに消えて
....
薔薇の蕾は美しい
少しづつ開いていく姿も
この世のものとは思えないほど艶かしく美しい
だが咲ききって
たちまち黒ずんでいく花芯も露に
剥がれ落ちるのを待つさまは
あまりにも見苦しく
....
雨の夕暮れは静か
魂が濡れるに任せて
ただ風は流れる
雨雲は青々と輝いて
名も知らぬ鳥の姿を溶かす
嗚呼
わたしは安心したいのに
地球が優しく泣くから
その肩をそっと抱いて
慰め ....
炎天下
暗転する
極めて正直な
光の圧に屈服
発汗 溶解した エロチシズム
レイバンをかけたロダン
考えない人たち
薬指に カラスアゲハ
....
薔薇園を見に行って
大事なイヤリングを落としてしまった
いつか落とすと思ってはいたけれど
いつ落としたのかわからない
歩いた跡を
再び
たどってみたけれど
ない
ひょっとし ....
夏の夜の終わりに
妖精の輪に足を踏み入れた
短針を飲み込んで
長針を吐き出した
秒針の枯渇が凍結してゆく
三針の傷痕が開いてゆく
真白いシーツの奥で蠢く
化生に成りつつある獣
....
頬を濡らすものを拭うこともせず
ただ手放しであなたは泣く
抱きしめても嗚咽はやむことなく
わたしの肩が湿り気を帯びる
体温の熱さが伝えてくるもの ....
朝を折りたたみ
昼を折りたたみ
犬を折りたたみ
猫を折りたたみ
自宅を折りたたみ
通りを折りたたみ
横断歩道を折りたたみ
バイパスを折りたたみ
街を折りたたみ
都市を折りたたみ
飛 ....
猫の喉奥から
小さな雷鳴が聴こえる
やがて
雨が降ることだろう
さみしさを埋めようとして
猫を飼うということを
怒っているのかい、
猫
六月の保護色みたいな灰色の毛は
なでられる ....
それだけが見える
ということが、あるのか
かつて、私であった人の
私へ曳かれる眼差しと
交わる、畸形の花
びらに似た、包装紙
いちぶ尖ったアルミ缶
ゴミやゴミが裏返り、
「眠るように」 ....
書き連ねたその名が
細波となって 寄せては返す
好きだ 好きだと 漏らした声
海に降る雪 静かに跡もなく
わたしは溶岩
死火山の 抜き盗られた{ルビ腸=はらわた}
灰の伝道者だった ....
うまれたての水のつめたさで
細胞のいくつかはよみがえる
けれど
それは錯覚で
時は決してさかのぼらない
この朝は昨日に似ていても
まっさらな朝である
それでも
あなたの水は
六月 ....
{画像=170702213809.jpg}{画像=170702115037.jpg}
この糸のほつれをそっと咥えて
赤錆びた握り鋏はその蓮の手の中――
信仰と諦念の{ルビ臺=うてな}に眠る 享年「 」
景色の皮膚を剥がした
耳は遠く
階段を上り下る
橙色の帽子 ....
ママほしをとってきて はーちゃんちいさいからてがとどかない
むすめの背も手もたしかに小さくて、でもかんたんに星に届きそうな気もするけど。
わたしにも届かない、あれはとても遠くにあってだれにもす ....
さざなみが産まれるところ
透きとおりながら
かすかに揺れる城が
月明りを映している
{引用=とうめいであることは
ない、ことではないよ
ないことにするには
醒める必要がある
} ....
――水脈を捉え ひとつの
薬湯のように甘く
饐えて 人臭い
廃物の精液
輸入された
どれだけ銭を洗っても
どれだけ子を流しても
....
風のグリッサンド
娘たちのうなじ
蜜蜂の囁きと遠い銃声
耳の奥 深く 深く
雨のアルペジオ
素早い波紋のダンス
生まれ 出会い 干渉しあう
飛べなくなった蜜蜂は冷たい
....
十代の恋は幼く
大人びた香りがした
あの夏の日暮れの
夜が落ちてくる手前の街を
指を絡めて歩いた
あなたの指は
ほそくしっとりとして
引かれるまま道を歩く
足取りはひどくゆっく ....
その美の真中に隠された荒野に
どうか 花ひとつ
植えるだけの土地を譲ってくれませんか
血の滲んだ足を隠して走り続ける旅路のどこか
ほんの一歩か二歩
見守る場所を許してほしいのです
....
長い黒髪 風にゆらめかせ
女子高生 夕陽を望む
滑らかな曲線を描くシルエットが
逆光によって赤い校庭に写し出される
女子高生は
ゆっくりと
こちらを向いて
その顔面が落ちる
ストンスト ....
静けさという音が
降ってきて
{引用=それは
大人に盛られた
眠り薬}
影という影が
今という現実の
いたづらな写し絵になる
いつまでも暮れてゆかない夜があった
小さな公 ....
すべてを話せるのなら
詩なんて書かなかった
人の間に立ち
場に即した言葉を選んでいるうち
いつしか僕らは機械のように
必要最小限しか話さなくなった
これを話せば秘密が漏れる
これ ....
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