からからと
蝉は
姿を消してゆく
夜のおわりに
ぽとり
落つく
砂浜に
ひかる
素肌のにぎわいが
白くつめたい
....
いたむ目に
また
煙り刺す
秋の空
誰か気づいて
夕立ちの人
仕方なく
灯すほのお
と
苦い液
吐 ....
夕べの階段の踊り場に止まっていた蝉が、今朝出勤する時には落ちていた。
死んでいた。何となく、そうなるような気はしていたけれど。
夏は、蝉の季節。
人通りが絶えるほど暑い午後に、街の影に蝉の声がこ ....
流しでグラスが割れた
まな板がおもいきり悪く愛をとなえると
こらえきらずにグラスが割れた
数すくない夢を
多角のくちびるに運び疲れ
包丁と見つめあっていたからか
鋭く指に切れ目をつけて流し ....
浮子が音もなく沈む勢いが朝焼けに相応しい
波濤と僥倖が今日の獲物と嘯いた帰宅は
日々つまずく私のなか波紋に拡がった
釣り糸は日々獲物の重さを変えながら
どこにか垂れた沈黙がふくらむ
....
青く薄い ひかりの午後
静かに生徒が佇む五月の日
気の早い蝿がふたつ
窓を開いた机にたち止まる
ひき出しの奥には 忘れられた手紙があると
放課後、静寂にのぞきこめば
それはたしかに彼の ....
送り火は遠い波濤にまっ先に消えた
竹飾りは猫と仔犬が昼の間
じゃれついた裏通りからの角ではためく
塗炭屋根を透いて夕凪の水平線が現れる頃
精霊流しは
漕ぎ手にまかせ不知火を渡る
町 ....
宵に待つ 一条の恋 春の路
窓を拭く 指の無言に 促され
アクセルを 優しく吹かす 恋心
ブレーキを 踏めば夕闇 追いすがる
遠ざかる テールランプは 赤い糸
ど ....
吸うほどに 浮いて沈んだ 青い筋
折からに 鎖骨を越えた 雲の影
桜散り 耳にも息を 吹きかける
唇は 何が詰まって 見つめたい
水玉は うぶ毛で触れて 熱さます
糸 ....
恋人に 戻って祝う 受話器越し
嵩む文 覚えた文字も 褪せぬまま
愛の名で 伝えられない 夜もある
その顔を 見知らぬ人に 重ね抱く
一年の 長さが知れる 人の生
祝杯は ....
小さな小さな砂糖菓子
南風に吹かれてたくて 冬は欠けた月の下
目蓋を優しく通過した 低い雲を聞けよ
小さな小さな砂糖菓子
眠れる人の幸せなこと 温かな毛布と湿度を得られよ
生み ....
愛を繰りだす窓際の寝室
撫で、掴み、引き押しながら
おそ過ぎた朝食を悔やむ
みじかくも仄かな一日は
濯いたての匂いが饐えてゆく
掌に背骨は山脈のように
つっぷした表情を、時に苦悶させ
....
甘い言葉は
どんな悲しみも
悦ぶ虫達が
赫ぐ影を
柔らかい地球は
固めて伸ばし
チョコレートコスモス
何をか透かして
吸い上げられた空が
象の奥で咲きゆれる
....
夕暮れの城
ひかりは厚さを失いはじめひとりまたひとり
公園の砂場から友達がいなくなってゆく
やわらかな指の持ち主を伸びきった影が薙ぐ
夕暮れの城を築く今日の砂が水を失い
ひと葉の小枝を支 ....
きみの「ああ」が好きだった。
やさしい瞳でうなずく、あたたかい「ああ」が好きだった。
僕らはいつも少年達のように空を見上げて、周りからは「鳥になりたいふたり」なんてひっくるめられたね。
いつから ....
ためらいが 残しておいた 菓子の星
夕日にひとつ 溶けて流れる
幾重にも 包んでしまう ゆびの白
ちいさき粒も 重く冷たく
一言も 添えられぬまま この夜は
....
嗅ぎ終わり 爪を纏めた 招待状
心さえ 閉ざす余白に 紙の赤
父母は笑む 滂沱鼻水 蠅憩う
祝詞さえ {ルビ手跡=て}に淀ませて 墨もくろ
別れの紀 渡す花束 枯れ ....
横たえられた貴女
緩やかな緊張に伸びる身体
山
胸を吸い取り
旋回する鳶は私
海
月に曳かれ
道跡を渡る貝は私
波の華が夜空を
散って涙する
けれ ....
ネットしてる場合じゃない
今日は仕事の初日
ひげ切り整えて
歯ぁみがかなきゃ
おくれっちまう
風呂は沸きすぎ
やがて16ビートを刻むだろう
なのにこんなコトバ打ち込んで
それでも目一杯 ....
指の跡 みじかい文の うらおもて
いまさらの 恋が見えない あぶり出し
ときどきが どきどきするほど わるい恋
電熱器を横に食す
ことし最後のみかん
そのたくさんの房
ひとつひとつがいのちで
手につくつめたい湿りがちの
粉のようなものもいのちで
すじもいのち
黒くて
安塗りの
ディスカウントセ ....
カタコンブ片
地下墓地の奥に見つかった
女体がひとつ
乾き切ったほむらの形相で
蕩けた口の大きさで
己の生死を問うている
造物主に
世紀を越える時
女もこどもも兵士も一様 ....
頸垂れ 刻まれうつくし 野の葉
瞳熟れ 聯花の落ちくし
低く 揺れ 重く
薫り 茎に 円か
おどろ路 店先は
ひとりに 薔薇の
縁に鉢置き ひとつ 騒ぎ
男女の白腋 ....
空がきれいに映った窓の拭き手
命綱に繋ぐ彼が空を拭く手
見上げるのはあんまり小さい
動かす腕の振り幅
すべての空を拭き終えるには
ビルさえ朽ち残らない
しずくひとつ零しても
....
初冬というには、カーテンとレースと硝子の温度差の
循環もいまだ緩やかな隙間 立冬の日の深まりらしく
ベランダに出てみれば 秋のつつがない光
唖 唖 そうそろ落陽ですな
....
0.37sec.