はるだし(マッドサイエンティスト編)
佐々宝砂


試験管に緑の液体 三角フラスコに赤の液体
というのが流行でないのは知ってるくせに
やっぱり実験台の上には緑と赤の液体

灰色のふわふわがはびこるシャーレや
知性ある紫の蛸が蠢く水槽や
わざわざ真空管を使用した放電器などを見回して
これこそわが王国 と彼はわらう
わらうとビン底メガネの奥の目もけっこうかわいい

DNAも染色体も知らないのに
それでも彼はクローンをつくっちゃう
それもね 有名なドリーくんとは違って
関節炎になったりしないクローン

でも彼はクローンづくりはやめたの
なんでって やっぱり こう
簡単に手に入るものはつまんないんでしょ きっと

とういうわけで 彼は
ピンクと黄色のジャージ上下に白衣をひっかけ
若白髪のぼさぼさ髪をかきむしり

新たな研究に取っ組んでるんだけど

何の研究かって?
それがね 笑っちゃうの
春を抽出するんだってさ
春から抽出したはるだしをお湯に注げば
永久凍土もあったかくとける
……んだってさ

地球温暖化のご時世に
永久凍土溶かしてどうするつもりかしらないけど

まあこのありさまじゃ春もこないよねえ
試験管に緑の液体 三角フラスコに赤の液体
それからいつも実験台で頬杖のわたし
わたしに春が来るのはいつよ
ねえ教えてよ

……マッドサイエンティストさん?


自由詩 はるだし(マッドサイエンティスト編) Copyright 佐々宝砂 2004-03-18 16:09:27
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