はるだし(私立探偵編)
佐々宝砂

春は死にかけている
ぼそっとつぶやいて探偵は
ブラインドの隙間から夕陽を見た

まともにブラインドを開けて見りゃーいいのにと
読者は思うかもしれないが
これはこの探偵の美学であり習慣であるのでお許し願いたい

実際この探偵は
行く春のことなぞかまっちゃおれないはずなのだが
(死体がみっつ 情報屋は行方不明)
探偵が所属する固ゆで卵協会は
毎夕こうして夕陽を見ることを奨励しているのである

だからムスリムが定刻に祈りを捧げるごとくに
探偵はこうしてブラインドの隙間から夕陽を見
それから協会会則どおりにちょっと感傷的になってみるのだ

私立探偵に感傷の種は事欠かない
死体がみっつあるし情報屋は行方不明だし
それにもちろん
春だしねえ


自由詩 はるだし(私立探偵編) Copyright 佐々宝砂 2004-03-18 16:08:26
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