夜中に台所で誰かに
佐々宝砂

夜中に台所で誰かに話しかけたかったら
話しかけたらいい
誰もいなかったなら蛇口にでも話しかけたらいい
君は自由だ本質的に
誰の手にも負えないくらいに

卑猥なことを叫びたかったら
夜空に叫べばいいんだし
夜中に台所で誰かに話しかけたかった誰かさんは
叫ぶに違いない

わたしはのんびりとコーヒーを飲み
それから睡眠薬と頭痛薬を飲み
布団をかぶって眠ろうとするけれど眠れない
眠っても眠らなくてもどっちでもいいので
わたしはあまり気にしない

夜中の台所はこうこうとあかるい
蛇口から出る水ももう冷たすぎるということはない

わたしのテロメアの回数券が
ちょっとずつ減ってゆく

あした死んでもかまわないし
死ななくてもかまわない

わたしは自由だどうしようもなく
突如手に入れたこのおそろしく空虚な自由を
わたしはどうしたらいいか知らない


自由詩 夜中に台所で誰かに Copyright 佐々宝砂 2004-03-17 02:58:00
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