満月の底
atsuchan69

しんしんと眠る森
十五夜の月を映した湖
さらに枯野をすぎて

大地の裂け目から
地の底から
やさしく吹かれた
しゃぼん玉のように
夥しいほどの色づいた想いが
きっと魔法みたいに重力の枷をきって
次々と自由きままに浮かび蠢く
ベルガマスクのメロディ

ふたり幽体離脱を果たし
夜と昼のとおい絆を手繰りよせ、
せめて抱擁をしつづける僕たちの 
儚い今を「どうか許してほしい

秋風に弄ばれ、薄(すすき)の揺れる河原に
殺戮の赤い羽の天使たちが舞い降りて集う
密かな宴に歌う、哀しき鈴虫
夢にも満たない小さな羽音は擦れ
夜の湿りに、ほんのひと昔まえが蘇える//

あれは僕たちの出会い――
そして躓きの石の置かれたビルの谷間
超法規的な/ 許可された殺人が
白昼堂々と行なわれる、そのさなか
君は赤いエナメルのパンプスを履いて
無惨な死体の群れを踏みながら
女豹のごとく足早に過ぎてゆく

銃口をむけて立ち止まった君が云った、
「試してご覧になってみては?
――スリリングな生き方という現実を。

僕は/ グラマラスな君の肢体を抱き、
黒革のミニのスカートを捲った
汗ばんだ女豹の匂いが僕を包み、
夢よりも重い一時の価値を胸に刻んだ

君を愛してしまった、狂うほどに!
もはや思想やモラルを超えて君の全てを

と同時に、互いに囚われ
処刑される日までの限りある時間に
暗殺と間諜の日々の空しさが
この牢獄に重く沈むのをたった今
息も絶え絶えに想う

小さな窓から射す月の光
ああ、「今宵は満月なのだ。


自由詩 満月の底 Copyright atsuchan69 2006-09-29 03:26:53
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