とにかく書いてみるのである
佐々宝砂

ここから出なくてはならんのである
いつもよりは前向きな気分なのである
なんとかせなならんのはわかっているのである
何をどうしたらいいのかもわかっているのである
こんなことしてる場合でないのも
重々承知なのである

それはそれとして

窓から首を出すと風が吹きすさんでいるのである
こたつはひたすらあったかいのである
さっき早めの夕飯を食べたばかりで眠いのである
ヘッドフォンから流れる音楽は三連符の古いスローロックである
リズムに身を任せるとさらに眠くなるのである

それはそれとして

ここから出なくてはならんのである
地球はゆりかごだが
いつまでもゆりかごにいるわけにはいかないのである
と古い名文句を今さら引用しても無意味なのである

それはそれとして

少しずつ日が長くなっているらしいのである
夕刻の空はまだほんのりと明るいのである
故に私は絶望しないし焦らないのである
とこれも古い名文句の引用だが
この名文句には多少なりとも効用があるのである

それはそれとして

せめて手紙を書こうと思うのである
私は生きているのである
あのひとも生きているのである
ここで話が終わったらバカバカしいの極みなのである
バカバカしいのが他人の話なら楽しいのであるが
自分の話ではちっともおもしろくないのである

というわけで
とにかく書いてみるのである
届くのか届かないのかわからない手紙を
投函するつもりがあるかないかそれすら曖昧な手紙を
書いてみるのである あのひとに
退屈な「である」調はすべて省略して
私はやっぱりあなたが好き

なんて書けたらこんなもの書いてるわけがないのである


自由詩 とにかく書いてみるのである Copyright 佐々宝砂 2004-03-13 03:48:03
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