花の島 ostrovo zvieca
七尾きよし

久しぶりにspendorのスピーカーをつなげた。
かかっているのはなぜか坂本龍一の「戦場のメリークリスマス」

昔、、血生臭い戦場近くの町のバスステーションでセルビア人の兄妹と出会った。
片言の英語で「うちへ遊びにおいで」と笑顔で言うラドヴァンとアドリアナ。
次の日の午後、ちっぽけな紙きれに書かれた住所を頼りに彼らが住む小島への橋を渡った。
クロアチアから逃げてきたセルビア人たちが住み着いた島。
その名はostrovo zvieca。日本語で「花の島」。
島にはなぜかアフリカの木が生えていて、
小さな木の実は、なぜか幹に直接生っていた。
近くの空港で働くラドヴァンは
アメリカの秘密偵察機の破片さ
とネジみたいな部品をくれた。
アメリカは墜落したこと認めないけど
これ現場で拾ったんだぜ。

ぼくらは次の日の夜、町へ
heartbreakersというロックバンドのライブ
を見に行った。
いつもヒッチハイクで。
30円のパンを三人で分けて食べて。

三人は深夜のポドゴリッツァを歩いて横切り
大学の寮にこっそり忍びこんで
夜を明かした。
暗闇の中ベッドの上
転がりながらラドヴァンの声を
頭の中、繰り返した
「今は安全な街になったんだよ。
ぼくらが中学生のころはみんな銃を持っていた。
道を歩いてるだけでみんな撃ち殺されたんだよ」
アドリアナの声。
「アドリア海に面したクロアチアの町。
私たちの故郷の街。
夏になるとね。水かけ祭があるの。
女の子は好きな男の子を狙って水をかけるのよ」

松林の中でぼくとアドリアナはラドヴァンを待ってた。
ぼくの手のひらよりも大っきな
大っきな松ぼっくりを見つけたぼくは
おでこの上でクルクル回して
「見て。見て!」って叫んで
アドリアナは歯並びの悪い口をおおい隠すように
手をあてながらクスクスわらった。。






散文(批評随筆小説等) 花の島 ostrovo zvieca Copyright 七尾きよし 2006-01-21 11:14:21
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