王城
恋月 ぴの

まだ携帯電話が
一般的でなかったあの頃
待ち合わせ場所に
君は現れず
2時間待った僕は
君と二人で良く訪れた
この喫茶店で独り
コーヒーを啜る

ニーチェの善悪の彼岸
ツァラトゥストラはかく語りき
について熱く語る
君の輝く瞳を
僕は覗き込んでは
てんで上の空
時折生き物のように唇の奥から
僕を誘うようにぬめる
赤くしなやかな舌先
君の甘く柔らかな香りに
僕は固くなった陰茎の先を
もじもじさせていた

今僕は君と二人座った
いつものテーブルで独り
腕を組みながら静かに流れる
モーツァルトに耳を傾けている
古ぼけたテーブル
くすんだミルクピッチャー
君に返したかった道徳の系譜に
挟まれたしおりは
甘い君の香りがするよ

そろそろお尻も痛くなり
飲みかけのコーヒーカップ
外していた腕時計を腕にはめ
会計を済ませると
何気に店内を見回し
居るはずの無い君の姿を探してみる
外はまだ明るくて
見え隠れする空には
夏雲くっきり浮かんでいる


自由詩 王城 Copyright 恋月 ぴの 2005-07-11 22:02:18
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