虚と実のバラッド
狸亭

男がさ虚で女が実なのか
虚が女でさ実が男だって
どちらがどちらであったらいいのか
そんなことを考えながらだって
日は過ぎてゆくのだし思い切って
電話したのだよ十年前の
あの女にさなんという身勝手
女の姉さんが電話口での

迷惑顔暗い声で仄か
に伝わる深夜のホテルにあって
実の男はさてどうしたものか
虚であるのにしくはないと思って
実はそこにいないと言われたって
むかしの面影が男の夢の
奥からあらわれて酔っぱらって
からんでくる虚実あの手この手の

手練手管にうつらうつらなのか
体中神経が逆立って
悶悶転転の十字砲火
に晒され濃い炎燃え上がって
眠りから朝の目覚めに至って
釜山タワーを見上げる見覚えの
ある町並みの不揃い今もって
静かなる朝の国虚の人への

想いは大空に消えていくほか
致し方ない男はなんたって
妻も子もある平凡な夢想家
機首ははや東京に向かって

(押韻定型詩の試み 3)


自由詩 虚と実のバラッド Copyright 狸亭 2003-12-10 09:26:53
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