ききみみ図書館
佐々宝砂

きょうは朝から春の雨

森の仕事もできないし
畑の仕事もできないし
海草拾いもできないから
カイとふたりで赤いカサさして
てくてく出かける
ききみみ図書館

司書のおじいさんは
てかてかのはげあたまに
ぴかぴかの金ぶちめがね
こんにちはっとあいさつすると
むっつり顔で口に指をあてた

しずかに足音カサとも立てないように
気をつけて
そうっと奥の部屋にはいると
とうめいなみどりの霧がもわっ

それきりなにも見えなくなって
床の感触が消えて
暑さ寒さもわからなくなって
匂いも味もなにもかも消えて
カイと私はふたつの大きな耳になる

……ききみみ……ききみみ……

かすかな声が
ずっとむかしの物語を
かすかにかすかにささやきはじめる

外ではきっとまだ春の雨
その雨音が
からだのなかにひびいてくる




連作「カイとわたしの物語」より
第1弾「春咲ねこのて」http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=4192
第2弾「うみろば風信」http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=4193
第3弾「ききみみ図書館」http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=4194
第4弾「冬去しらさぎ」http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=33608


自由詩 ききみみ図書館 Copyright 佐々宝砂 2003-12-10 05:05:12
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