うみろば風信
佐々宝砂

海はすっかり赤ワインで
空はすっかり酔っているのに
うみろばはまだやってこない

ところで
したり顔でカイが言うには
うみろばの役目は
海馬のはんたいなんだって
海馬ってなんだか知らないけど
お利口さんには必要なものらしい
それじゃあんたにはいらないねって
カイに言ったら
怒るの怒らないの
きのう私が割ったお皿のことまで持ち出して
おまえはいつもだらしないとか
つまんないこと言うなとか
それで私も頭に来たから
カイのほっぺたひっぱたいて
あんた誰のおかげで生きてんの
それって禁句だったんだけど
だってすごく腹が立ったんだもん
もちろんカイはブチ切れて
私のあごにアッパーカット
夕やけきれいな浜辺で
ふたり取っ組みあい

と とつぜん 青い風が吹いてきた

ううん
青い風じゃなかったかもしれない
よくわかんなかった
かめのぞきの色だってあとでカイが言った
あるかなきかの風の色が
ふわんと私とカイをつつんだ

なにやってたんだっけ?
カイにたずねた
なにやってたんだろね?
カイがたずねた

なにやってたか忘れたから
とにかく帰ることにした
まだ空はあんまり暗くなかった

今夜は
シーフードのシチュー食べようね カイ





連作「カイとわたしの物語」より
第1弾「春咲ねこのて」http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=4192
第2弾「うみろば風信」http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=4193
第3弾「ききみみ図書館」http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=4194
第4弾「冬去しらさぎ」http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=33608


自由詩 うみろば風信 Copyright 佐々宝砂 2003-12-10 05:04:18
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