病みめぐり 夜ひらめき
木立 悟






夕方のにおい
泡と爪
捨て置かれた
水たまりの径


光を隠す蜘蛛の巣から
小さな蛾が何羽も生まれ
造りかけの橋が墓になるまでの時間を
ゆうるりとゆうるりと埋めてゆく


大勢が一人を歩むとき
一人のものは半分を歩み
夜の端をむしりながら
路傍のうたに撒いてゆく


羽の曇が 翼の曇が
かたまりとなり空をすぎる
屋上にだけ在る雪の無い冬
雨に流され消えてゆく


地も空も区別なく
折りたたんだほころびから
光の楽団 手のひらの層
灰と水の歴史書を奏でる


影を持つ滴のまぼろしが
乾いた径の上を進みゆく
昏い緑 海の上の月の足跡
溶岩に雨そそぐ手のひら


空の底の見えない火から
常に常に降りつづくもの
聞こえない花の拍手のなか
すべてを少しずつ変えてゆく


















自由詩 病みめぐり 夜ひらめき Copyright 木立 悟 2019-07-24 21:01:54
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