系図
ぽりせつ

たったひとつ足りないばかりに
水になれない命がこの世にはあるのだから

たったひとつの決まりごとのために
美になれない命があっても おかしくはない

 (だからこそーー )
ふと眺めた死 祖先たちの積み重なった空に 
おとなたちはあやうく墜ちてゆきそうになったり
こどもたちは
「あんそろじあ!」と云いながら 未聞の解剖学によって
せかいのひみつを毟ったりしてきたのだ

 (その柔かなゆびで うすい羽をやぶるほどの
  容易い決まりごとと信じて )

ときに稲妻によって
ときにつつじの枝によって
そしてときに 枯渇した大地のひびによって
人がことばを発明するはるか昔から
美は論述されてきた

やがて わたしたちが絶えたあと
限りなく人のかたちをしたマシーンたちが
心について語りはじめるだろう
絵にもするだろう
価値や 学術や 神話にもするだろう

それでも 七十億の鉄骨のすきまに
一滴の水も 流れはしないのだ

七十億の肋骨のすきまに
ついに美の一風が吹かなかったように・・・

青空は だれも墜ちてこなくなった下界の深みに
それでも静かに 在りつづけるだろうかーー


自由詩 系図 Copyright ぽりせつ 2019-05-13 08:24:38
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