ひととき
梓ゆい

追視を始めるくりくりとした大きな瞳は
一点を眺めたまま離さない。
目じりと頬に皺を寄せて
くしゃりと笑った父の顔を。

丸くて小さな手は
元気よく動いて何かを掴もうとしている。
頭をなでる手に反応をして
もっと甘えたい。と
おねだりをしているかのように。

「ただいま、会いに来たよ。」

そこにあるのは
孫の顔を見ないまま
あの世への旅路を急いだ父と
もうすぐお食い初めを迎える甥っ子の
楽しくも穏やかなひととき。


自由詩 ひととき Copyright 梓ゆい 2019-05-10 11:22:31
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