密かな望み
梓ゆい

「おはよう。」の声に反応をして
力いっぱいに両腕を動かす
生後二カ月目の甥っ子。

小さな身体をそっと抱き上げて
ミルクを飲ませる妹の横顔は
また一つ新たな変化を見せている。

よちよち歩きのころ
転んでは大きな声で泣きじゃくる姿と
父の背中とひざの上で寝ている姿が
甥っ子の手を握り
そっと頭や頬に触れれば蘇る。

上を見上げると
穏やかな笑みを浮かべる父の遺影。
家族の新たな日々を見守っているかのようだ。

たとえ近くにいたとしても
元気に育つ姿を眺めては
声をかけて行くことしか出来ない。と
寂しそうに俯く顔が浮かんでしまうから
私はいつもにこっと笑い
喃語で話しかけてくる甥っ子に
訪ねてしまうのです。

「よしくん。よしくん。
おじいちゃんがどこにいるのか?を
おばちゃんに教えて。」

そうすれば
ぐーっっと伸ばした腕と
じっと見つめている目線の先にいるのだと
信じさせてください。

大きな瞳が指し示すその場所には
孫に会いに来た父がいるのだということを。






自由詩 密かな望み Copyright 梓ゆい 2019-05-10 12:15:45
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