手花火や照らす横顔初化粧
ふじりゅう

夏祭りの余韻で惚けた空 雲が
ゆっくり流れ来る
おねんねしだす家々
空気を読む涼風は熱を除かず
手花火静か 照らされし君の頬を
にきびを
ちょっとみ

2車両ほどしかない田舎電鉄の呼吸
重く 深く 響く
染み渡る彼女の荒い呼吸

誘われたからって来るわけじゃなく
だけどねたかが花火ひとつ
君の二つ返事まぼろしみたい
新しいゆかたびちょびちょ
怖くてまた遠ざかった
おかしいよね よね かも
君のLINEをスクショしたこと

深呼吸の届かぬ耳
一通の便りのように
水バケツに浮かぶ青葉は
恥ずかしいほど若やか
新品の匂い 焼ける時間の
焦げ臭さと手を組んで
薄く広がった雲に紛れる
繰り返される同じようなドラマの
なんとあまやかな 野鳥の音

ゆっくりも、
して、
いられない、
押し迫る、
火の雫、
玉の汗拭う、
いつの間にか
クローズアップされた、
土の粒。
さっと入り乱れて、
熱気を拭う風甘く、
また一歩夜空は、
雲は、
近づく、

なにか、ないか、
なんてさがしては探し物掻き消え
火の粉をまぶし 消えた線香花火
バケツからさよならの手紙が鳴った
臓器から捻じ出した言葉は「終わっちゃったね」
どうすれば好きに変わるのですか
瞳を見交わしたい願いは彼方
うすぼけた月やけに眩しい

摩耗したビデオテープのような1日のおわり
彼女はやたらめったら手を振った

深夜のGoogle
作戦会議と称すぼんやり
知ること貰うこと奪うことを
求めカラスのように
羽根広げなないろの疲れ
ひとあくびしたあと意識ない


夏祭りの余韻で惚けた空 雲は
「いつも」の分子と混ざりまろやか
「普段」が目覚めた家々
手花火静か 照らされし君の頬
まだ鮮明な一等星のひとつ


水汚れの鏡の隅の
化粧の粉を拭っておいた母の
清濁入り混じる微笑みは
蛇口の水音はじけて分からない


自由詩 手花火や照らす横顔初化粧 Copyright ふじりゅう 2019-04-28 04:02:13
notebook Home 戻る  過去 未来