狂犬
マサヒロK

俺が狂犬病になったのは
今を去る事10年前
酩酊した取引先営業マンO氏に
「テメーこの野郎」の決り文句と共に
骨に食らいつくブルドック
あるいは
犯人に噛み付く警察犬もかくやと思える勢いで
乱暴狼藉をされる身に覚えのないまま
肉がちぎれる寸前まで腕を噛まれ
引き離そうとする周りの努力にもかかわらず
永久に噛み続けるかのような様相を呈したものの
周りの人間にボコボコにされてようやく口を離し
帰り際「おらー」の声と共に店の玄関に立ち小便をして去り
その翌日さわやかな顔で
昨日の事はまったく覚えてない
今日もご注文ありがとうございますと言った
その後一週間消えなかった
その時の歯型から感染したものと思われる
あの時のあの男の顔
目が据わっていたあの男の顔
何かに取り付かれたような顔
俺はこの世の王だ
誰にも邪魔されない
次は誰に噛み付いてやろうか
と言いたげだったあの男の顔
あの顔は忘れられない
その後事ある毎に
俺もいつか誰かの腕を
肉がちぎれる寸前まで噛み付きたいものだ
男はああじゃなきゃいけない
あそこまでやってこそ男
と噛まれた腕のあたりをさすりながら
思う次第である
「内なる狂気を飼いならし
健全なる一社会人を演じる」
私は健全である


(40代制作)


自由詩 狂犬 Copyright マサヒロK 2019-04-17 21:41:20
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