陥穽
田島オスカー

まず すべて投げ捨てましょう、と君が言ったので
未だ僕は 自分が何も持っていない気がしてなりません


よく晴れた日には 何も無かったことにできるかもしれないと
少しだけ自信と 希望をもちます
そしてしばらくして でも何も持っていないのだ と思い直します
悲しくなりたがってしまうので そういう時はすぐに寝てしまいます
枕を濡らしたりはしません 結局は 悲しくなったりしませんし

傷ついたふりも得意です
一人でぼんやりとしていれば 秋の風が勝手に胸に沁みます
忘れないで、と君が言った一言は覚えているのに
何を忘れなければ良かったのか
ごめんね それは忘れてしまったよ

指先で触れていられなければ 何にしても好きでいるのは難しいのです
君にしても 僕自身の心にしても
幻想に包まれるなんて洒落たことは できません
中途半端な現実主義です おかげですべて失って

ほんとうは触れていられたはずのものすら
今はどこにも 見当たりません

 


自由詩 陥穽 Copyright 田島オスカー 2005-03-19 17:15:19
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