とやべ先生
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 小学二年生に上がって、担任は、とやべ先生になった。四十歳前後の男の先生だ。始業式の日、とやべ先生は言った。
「喧嘩がしたいときは、僕に言うように。僕が、審判をするから」
 ある日、小宮君と揉めたとき、私は、面倒になって、とやべ先生に言った。
「先生、小宮君と、喧嘩するから、立ち会って」
 放課後の、教室で、先生は、
「では、始めなさい」
 と言い、私は、小宮君に、組み付いた。私が、馬乗りになると、先生は止めた。
「君は、まだ、やりたいか」
 と、私に訊いた。
「まだまだ!」
 と私は、答えたが、小宮君は
「もう嫌だ」
 と泣きだした。すると、先生は、私に
「今度は、先生が相手だ!」
 と言って、私に、組み付いてきた。
「そんな、理不尽な」
 当時の私は、理不尽、という言葉は、知らなかったけれど、そのようなことを思った。
 先生に、組み伏せらた私は、泣いた。悔しくて、涙が止まらなかった。この先生は、間違っている。強く、そう思った。
 以来、私は、授業を、まともに聴かなくなった。中の上程度だった私の成績は、中の下に下がった。私が、先生、というものを、信用しなくなったのは、それからだ。それまでは、授業中の教室で、先生に解答を求められれば、手を上げるような、積極的な子供だったのに。
 資質も、あるだろうが、先生、というものが好きになれないのだから、学校そのものが、つまらない。成績も、下がる一方。
 人は、人生において、いくつものターニングポイントを通過して、今に至る。あれは、そのなかのひとつであった。
 ところで、小宮君は、二学期の中頃、転校していった。
 月日は流れ、四年生の時に、私は、小宮君と再会した。カブスカウト(ボーイスカウトの小学生版)の大きな集会で、小宮君を見かけたのだ。
 その時の小宮君は、私よりずっと背が高く、私は、今、喧嘩したら、負ける、と思った。小宮君も、私に気が付いているようだったが、私は、小宮君の視線を無視した。


散文(批評随筆小説等) とやべ先生 Copyright MOJO 2016-09-15 20:28:26
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