街の風景
藤原絵理子


救急車が 走り回る
寝静まった街を 音もたてずに

誰かが 泣いている
悲しい出来事は もうないのよ と

地下街の換気口から ため息
焼かれた鶏の モツになった牛の

生暖かい風が 吹き上がる
あたしのスカートが ため息に翻る

タンポポの花は 明るく揺れて
それほどの時間は 残されていない
傷ついた人魚の 透きとおる
光って揺らめく道 月が傾いて反射する

彼は 無闇に煙草をふかす わざわざ
燐寸で火を点けて 軸が燃え尽きるまで
まるで 灰にするのが使命のように
増殖する 遺伝子を無視して

砂漠が血を吸っても
救急車はどこからも来ない

幼い少年が 迫撃砲を肩に載せないよう
狙撃手は 祈っている

天空の鏡に 星座が映る
悲しい出来事は もうないのよ と


自由詩 街の風景 Copyright 藤原絵理子 2015-02-21 00:21:37
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