真夜中、白昼夢を見て。
ホロウ・シカエルボク







遠い世界の音
聞かせて、僕の耳に
失われた、古代の
あるいは、未来でもいい
遠い世界の音
聞かせて、僕の耳に

無理矢理に心臓を
捻じ曲げるような夜中
薄暗がりの中で
軽い頭痛の中で
睡魔はここの番地を忘れ
余所の窓へと飛んで行った
薄暗がりでひとり
どこに行くのかも判らないうたを書いている
触るだけでいい画面は、こんな夜にはとても便利だ

向かいの道でアイドリングしてるバイクのエンジン
きっとメールでもチェックしてるんだ、あの辺りにはベンチも自販機もないから
少し長引いてるから返信でもしてるんだな
短い言葉を打ち終えたらきっと走って行くだろう
「詳しいことはあとで」きっとそんな文面だろう

真っ暗な公園を散歩したことがある
あれは十数年前の年が明けて間もない頃だった
その頃甲状腺をおかしくしていてろくに眠れなくて
真夜中に家を出てはよくうろついていたんだ
グラウンドの周辺に木を植えた、遊具とベンチのある大きめの公園さ、凄くでかい銀杏の木があってね、葉が落ちる頃はすごく綺麗なんだ
外灯は少しはあるけどほとんどの通路は真っ暗でー今思えばなんであんなに暗かったのだろう、すぐそばに大きな団地があったのにー午前三時近くだった、どうしてこんな時間にこんな所を歩いているんだろうか、なんて思いながらーほとんど毎日そんな風に歩いていたくせにさ…あんまり度胸のある方じゃないけど、不思議と少しも怖くはなかったな、夜中に霊園を歩いたこともあった、そういえば

公園の中には当然誰も人なんかいなくてさ、今思えばあれは遠い世界だったな、だけど、公園を抜けてコンビニに行くと、数人の人間がいたー考えてみればどんな夜中でもコンビニで一人だけだったことなんてないな

ところで全然話は違うんだけど、書いてて思い出したんだ、初めてパティ・スミスを聴いた喫茶店のこと…ヴォルスっていう店だった、もう随分前になくなっちゃった

おかしなもんだな、今、あの店のすぐ近くに住んでいるんだ…建物はまだ残っていて、今は、小さなライブ・ハウスになってるーそれは二階じゃなくて一階だけど…最近ちっともそんなこと思い出さなかった…そういやあの辺でベロマーク貼ってるスクーター、見たことあるな

遠い世界の音
聞かせて、僕の耳に
失われた、古代の
あるいは、未来でもいい
遠い世界の音
聞かせて、僕の耳に

どんなものならいい
どんな音ならいいの
ピアノとリーディングの
絶対的な楽曲みたいな
ねえ
繋がりのない思い出が這ってくる
もうすぐ夜は白に殺されて
絶対的な朝が来るだろう
僕は眠りに撥ねられた
明日はくだらないところに出かけなきゃならないのに








自由詩 真夜中、白昼夢を見て。 Copyright ホロウ・シカエルボク 2014-11-28 10:47:03
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