ブリッド・プロット・フラット
ホロウ・シカエルボク







くすんだ水晶体の行列が俺の進路を垂直に遮る、俺はやつらの頭を片っ端から潰し、道に落ちた脳漿を踏みつける、汚れちまった靴の底を街路樹で拭き、振り返るとまた新しい行列が横切っている、数が多すぎる、一時にたくさん殺せるやり方じゃないと駄目なのだ、俺はそれを諦める、俺は道端に座り込み―もちろん血だまりじゃないところに―やつらが通り過ぎるのを待つ、だが、それはいつまで経っても終わらない、列は、地球を一周して繋がっているのではないかと思えるほどに長い、そしてそこにいる連中は、驚くほど同じような顔をしている―表情ではない、たとえばスイッチをオフにした状態の液晶テレビのような酷似―俺は思わずさっき脳漿が散らばったままの路上に目をやる、もしかしたら底に散らばっているのはフレームや接続端子だったりするのかもしれないとそう思ったからだ、だが、そこに散らばっているのはきちんとした脳漿で、しんとした臭いさえ放っていた、俺は安心して視線を戻した、行列を眺めているとひとつのメロディが頭の中に浮かんだ、それがなんていう歌だったかと考えている間に結構な時間が過ぎていたが、行列はまだ終わりそうもなかった、歌のタイトルは「川の流れを見つめて」だった、そうか、と俺は思った、いままで考えたこともなかったけれど、あれはそういうことを歌っていたのかもしれない、ということだ、「川」と歌っているからといって、川の歌だとは限らないと…奇妙にスタイルのない、奇妙に無表情な流れ…そういうものをそんな風に歌っていたのかもしれないと、行列は終わらなかったが、もう薙ぎ倒す気はなかった、そんなことをしても隙間を空けることは出来ないだろう、こいつらは数が多過ぎるのだ…俺はどうしたものかと思いながら、今度は行列の意味について考え始めた、この行列に理由があるのだろうか?こうして眺めているだけでは皆目判らなかった、俺は立ち上がって行列の一人を捕まえて尋ねようとした、「なあ、この列はいったいなんなんだ?何でみんなこんなことをしてる?そして、なぜ、俺の行く手を延々と遮り続けるんだ…?」だが、彼らは決して足を止めなかった、引きとめようとしても、列から引っ張り出そうとしても、殴り飛ばしても止まりはしなかった、おかげて俺は、質問する機会を作ることが出来なかった、俺は質問する気を失った、もう一度道に腰を下ろして、川の流れを見つめて…これは何かに似ている、と思ったが、それがなんなのかは思い出せなかった、ゾンビ・ムービーかと思ったが、そうではなかった、彼らの求めるものはハッキリしている―俺はまた道の上に視線を落とした―そう、人間の脳味噌さ、それが欲しくて彼らは懸命に歩いている…行列には欲望というものがなかった、あるのかもしれないが、それは俺のものとは違っていた、もしそれがあるとしても、得体の知れない無の奥にしかないのだろう、欲望というにはそれは、あまりにも大人し過ぎる気がした、求めているというアティチュードではなかった、行列は確かにそれぞれがそれぞれの力で歩いていたが、そこには意思というようなものがまるで感じられなかった、まるで先頭の誰かに糸で引かれているかのようだった、あるいは、プログラミングの行程…プログラミングが構築されている、マシン言語の並ぶディスプレイをずっと眺めているような、そんな感覚だった、それは確かに何かを構築するのだろう、それは確かにひとりの力では成し得ないようなものだろう、それは確かに堅牢な城のような印象を見ているものに植えつけるだろう、だけどそれは裏を返せば、こいつらにはひとりで何かを成し得るようなつもりはまるでないのだということでもあった、それが、俺がこの行列に感じている違和感なのかもしれなかった、そう、言語…彼らはそれぞれが単語でしかなく、こうして連ならない限り単純な意味しか語れないのではないだろうかと思った、俺は立ち上がり、他の道を探すことにした、この行列が果てしなく続いているなら、またどこかの道で行く手を遮られることもあるだろう、だけどそれがどうだというのだ、俺の行きたい場所はひとつではない、もしもどこに行っても行く手を阻まれるというのであれば、地を掘るか空へ飛び上がるような手段を考えることだって出来る…もっとも、皆殺しに出来るほどの銃弾があれば、それが一番手っ取り早いのだろうけど。








自由詩 ブリッド・プロット・フラット Copyright ホロウ・シカエルボク 2014-11-16 00:19:56
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