口をぽかんと開けて
木屋 亞万

お口はこんなに丸いのにどうして漢字は四角いの
せめてニとか皿とかの方が口に近いよね
口は三画だけど四角で△□に〇い口

口から生まれた口太郎
口から生んだ母は歯が出て間口が広い
歯のせいで会話もうまく噛みあわず
顎もほっぺも落ちたまま
お前を産んだとき口がほんのり甘口だったと言った
お前も開いた口を塞がらなくしてやろうか
怒るたびに言われては開かれた口の奥底で
口蓋垂(のどちんこ)がかすかに揺れる
生まれた口へ錦を衣て帰りたくなるときもある

開口一番あんぐりあんぐり
口をあんぐり開けたまま
口が裂けてもぐりぐりあんあん
甘口序の口今のうち一口千円いかがです

災いの元のこの口を漬物石で重くして発酵させて酸っぱくするぞ
コンクリートで堅くして無茶して口が腐っても他に口はありゃしない

口をツンと尖らせて口火を切って衝いて出た
言葉が射抜くはずだったあの子の心は無傷で元気

口車にのせられて夕闇の中をドナドナと目よりも口がものを言う
口を揃えて出荷する口ほどにもない口ばかり

ぽかんと口を開けたまま
寝ているような泣いているような力の抜けた口
まさか死んでいるのではあるまいな
ぽかんと開いた口から産まれ出た魂は
開いた口を塞がらなくして旅に出る
もう口には戻らない
口ははじまり
何もかも口にはじまり
口に呑まれる


自由詩 口をぽかんと開けて Copyright 木屋 亞万 2014-11-22 22:34:15
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