冬、はじめました。
木屋 亞万

2014年11月また冬が来ます
つめたい風の吹きすさぶなか
ひかえめに降り注ぐ光のしてきた
途方もない宇宙の旅を考えたことがありますか
太陽系の中心から暗闇を進み続けた光の粒

息をするたび肺に訪れる空気が
辿ってきた風のルートをどれだけ知っているでしょう
海や砂漠や氷河や山や赤道辺りを過ぎてきた
風にはもはや故郷などない

蛇口をひねれば出てくる水が
両手につめたく触れるまで
果て無く流れてきた旅に
思いを巡らせたことはありますか

私の口に入るお米の
育った田んぼの雪解け水や
梅雨や日照りや台風を越えて
炊き上がるまでの道のりを感じることができますか

味噌汁の味噌や豆腐や薄あげは
元はどれも大豆なのに
それぞれ数奇な旅の末
一つのお椀に収まるわけです

さっき話したあの人が
出会う前に味わった人生のことを
どれくらい知ることができるでしょう
言葉の土台にあるものをどれだけ汲んでいけるでしょう

目の前にあるものは当然だと思っている
誰にとっても当たり前のことばかり
人も物も自然もすべて出会う前の旅があります
知らないせいで気付けない旅がいくつもあるのです

2014年11月
また冬が来ます
冬を運んできた寒風に
きびしいと嘆くその前に
つめたさがその頬に触れるまで
孤独にしてきた旅のことを考えてみてはどうでしょう

冬、はじめました
いろんな出会いが重なって
冬、はじまりました
今年は愛してくれますか


自由詩 冬、はじめました。 Copyright 木屋 亞万 2014-11-15 20:22:41
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