エルレーヌ追想
藤原絵理子


白ワインのグラスに 逆さまに
10月の雨に濡れた ムフタール通りが
もの憂げな 縮れ毛のきみの 髪の色と
愛した少年の 産毛の耀きが 悲しく重なる


こちらの世界に 繋ぎ止める すべてから
ありえない景色に憧れて 逃げ去る
秋の日のヴィオロンは 湿っている
秋の日のピストルは ほの暖かい きみの体温で


あたしは マロニエの実を拾って
本を抱えた カルチェ・ラタンの彼女に
恋をする 壁の向こうの世界を 空想する


巴里は沈黙している 無数の骸骨が黙り込む
流れ去る川の 水に溶け込んだ 悲しみと
吐き気のする汚物が 時間を刻んでいる


自由詩 エルレーヌ追想 Copyright 藤原絵理子 2014-10-18 22:24:42
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